新築される住宅の大半が木造軸組工法で建らていれる現状でありながら、案外、多くの人が、使用される木材の事について、ご存知無いまま進められているものと思われます。

ここでは、家を建てる前に知っておいて頂きたい「木の話」あれこれを、特に構造用木材について、お話しさせていただきます。皆様の御参考になれば幸いです。

 

住宅建築に構造用部材として使用される木材の殆どは針葉樹です。国産材では杉、桧。 外材ではヨーロッパから輸入されるホワイトウッド(欧州トウヒ:以下WW)レッドウッド(欧州アカマツ:以下RW)、北米から輸入されるダグラスファー(以下米マツ)が一般的に使用されている木材です。ただし、使用量は圧倒的に外材の方が優っています。

 

上記木材のうち、桧、杉、米マツは無垢材、WWとRWは集成材で使用されるケースが多い様です。無垢剤は原木丸太を四角に製材したもので、集成材は薄い板状に製材したものを貼り合わせて成形した物です。集成材は無垢材に比べて、総体的に強く、品質が均一化されているのが特徴です。反面、生産コストは高くなります。又、接着剤を使用する事による環境への負荷と耐久性への不安を指摘する声も有ります。

 

上記木材を使用箇所別に見ていくと、土台に桧、柱はWW集成材、桧、杉、梁桁等の横架材にRW集成材、米マツ、杉と使い分けられる事が一般的です。これは、それぞれの部材の特徴を活かして、適材適所に配置している結果です。この適材適所をさらに追求することで、コストパフォーマンスの高い住宅性能を確保する事も可能です。例えば、梁桁材で力の掛かる梁材のみ集成材を採用して他は無垢材仕様とする。同じく、力の掛かる箇所の柱を桧にして他には杉を使用する。1階柱に耐久性能が高い桧、杉を使用して防腐防蟻剤の使用を控える(フラット35仕様)等の方法が有ります。

 

外材は総じて高い強度性能をもっており、加えてWWは見た目にも綺麗な木です。ただし、これらは、シロアリの生息もなく、空気の乾燥した寒い地方で育っており、対腐朽、対蟻性能を持ち合わせておりません。温潤な気候の日本で使用する事には耐久性に不安が有ります。いくら高い強度があっても腐朽やシロアリの害を受けてしまえば元も子もありません。特にWWはシロアリに弱く、業界内ではシロアリの餌とも言われております。識者のなかには、この木を建築に使う事は犯罪行為であると指摘する声も有ります。現状ではこれらに化学薬品(防腐防蟻剤)を使用して防いでいますが、これら薬品はその毒性の影響と、時間の経過と共にその効果が薄れてしまう事が問題視されています。

 

先ず、一番に言われるのが価格の件です。日本の山は急勾配で伐り出すのに費用が掛かる上、人件費が高いなどと聞きますが、近年、杉丸太と北米材丸太では価格が逆転しています(杉丸太の方が安価)。それでも製材された材木が高いのは、不安定な供給体制(弱小)と複雑な流通等に問題があります。

次に品質の問題です。外材の殆どが乾燥材である事に比べ、流通している国産材に占める乾燥材の比率は30%以下です。加えて、その強度が不明確である事も問題であります。皆さんは国産無垢材がその強度を確認する事なく使用されている事をどう思われますか?木は自然の恵みです。その強度にバラツキがある事は当然です。想定強度を平均値とすれば、半分はそれ以下となります。杉や桧が品質的に劣っているわけではありません。木材乾燥や強度確認を怠っている事に問題があります。

価格が高い上に品質的に信頼できない状況で国産材が売れない事はある意味当然と言えます。

 

阪神大震災で木造家屋の倒壊の原因とされている老朽化とは、腐朽、シロアリの食害等の生物劣化よる物が大多数を占めていた事が調査の結果、判明しています。又、収縮による接合部分の不具合も確認されています。これらは、国産杉、桧に乾燥処理を施して使用することで、そのリスクを大幅に軽減する事が可能です。住宅の品質と安全性を確保するためには木材の乾燥が必要です。

構造材として輸入される針葉樹の多くは乾燥した寒い地域で生育した物です。元来の含水率も低く、人工乾燥させやすい特徴を持っています。対して日本の木は元々の含水率が非常に高く(杉の中には200%を超える物もある)乾燥が困難で、現在、国内で一般的な乾燥法(高温式蒸気乾燥法)では、桧や杉の柱等、断面の小さな物は乾燥可能ですが、梁桁等の大きな断面の乾燥には不十分な結果が付きまといます。この事が、国産材の品質を確認・表示した提供を妨げている事の一因でもあります。

木材は乾燥させると収縮による割れが発生します(干割れ)。ただし、その割れは部材自体の強度には影響しません。逆に木材の特徴から割れやすい材ほど強度の高い事が確認されています。しかしながら、割れている材の商品価値が低い現実があります。対して、割れを防ぐ措置として、昔から行われていた「背割り」と言う措置は、木材強度を1割ほど低下させます。又、現在国内で最も一般的な木材乾燥法である高温式蒸気乾燥法は、表面割れは発生しませんが、内部割れと細胞破壊を誘発し、著しい強度低下のリスクを抱えています。見た目を重視し、木材強度をないがしろにしている流通業者や工務店の姿勢には問題があると言えます。

 

外材は見た目の美しさと初期の強度等の品質性能に優れていますが、耐久性が低いため、その性能の維持に不安があります。化学薬品に頼ることでの環境への負荷と、その効果の維持に課題が残ります。対して、国産材は基本的な品質性能で劣るわけではありませんが、その性能確保と確認がされていない事に問題があります。価格面においては、異常な円高によって表面化していませんが、外材は一昨年来、値上がり基調で推移していて、この傾向は継続する事が予想されています。国産材については1970年をピークに下がり続け、最近ではその差は僅差となっています。為替の動向等によっては逆転する事も十分に考えられます。

 

日本の国土の70%近くを占める森林のうち、45%が森林資源の確保を目的に人間の手によってつくられた人工林で、その大半が杉及び桧です。これらが売れない事を理由に放置され、生態系の破壊や土砂崩れ、花粉の大量発生など、環境破壊を引き起こしています。又、林業の衰退を一因とする地方経済の停滞・悪化も深刻です。人工林において、伐採期を迎えた木を伐り、新たに植林して循環を促す事はCO2削減の見地からも有益な事です。伐採する事が環境破壊につながるとは限りません、人の手で造られてしまった森の木を伐らない事の環境破壊もあるのです。

 

国産材活用の必要性は皆様にも御理解いただけると思います。では、そのためには現実問題として何を行うのかが問われますが、答えは簡単明瞭です。国産材に木材乾燥を施した上で、強度等性能を確認選別して提供する事です。つまり、国産木材に信頼を与える事です。その為には技術開発等、幾多の課題の克服も必要になるでしょう。しかし、それは、国土(山林)の荒廃を防ぎ、CO2削減(環境問題)、地域間格差の是正(経済問題)、持続可能な循環での資源確保(資源問題)等多義にわたり貢献出来、又、消費者(施主)に対しても、安心の建物性能と良質な住環境を提供する、大変大きな意義のある行為なのです。

私共SSDプロジェクトでは、木材乾燥の技術開発から始めて、グレーディングによる品質確認とその表示提供を、現実的価格で可能にしました。しかしながら、これらの取り組みは、業界全体から見て、未だ、極々小さな動きでしかありません。これが、日本の木材関係者や建築関係者に「気付き」をもたらし、大きな動きに発展する事の切欠になる事を切望します。

住宅の新築を予定されている皆様のなかで、国産材活用の意義を感じ、その採用を御検討いただける方がいらしたら、お願いがあります。工務店等にグレーディング材採用を希望して見て下さい。現状ではその部材の確保は困難で、実現は不可能かもしれません。しかしながら、ユーザーの声として上がる事により、業界関係者の意識改革や、現状打破のきっかけとなる事を期待しております。宜しくお願い致します。