森林経営法案 新税の無駄遣いは許されない

2018年02月12日 読売新聞社説

 国土の3分の2を占める森林は、国民共有の財産である。その保全は、土砂災害を防ぎ、水源の涵養かんようにつながる。

 新たな税を導入する以上、無駄遣いを排し、林業再生に向けた多方面の方策を総合的に進める必要がある。

 政府は、林業の成長産業化と、森林資源の適切な保全を車の両輪とする「森林経営管理法案」を通常国会に提出する。

 未活用の私有林を市町村が集約し、より広い区画で林業事業者に経営を委託する。採算が合わない私有林は、市町村が公費で間伐など最低限の管理を行う。政府は2019年度の施行を目指す。

 伐採―販売―植林のサイクルをうまく回すためには、ある程度の事業規模がなければなるまい。

 公費による私有林の管理も、山林の荒廃が災害を招く可能性を考えれば、方向性は妥当である。

 懸念されるのは、新制度の中核を担うべき自治体の能力不足だ。山間部の市町村のうち、林業専従の職員は「不在または1人」が4割に上る。近隣自治体との広域連合が選択肢となろう。

 新制度の財源として政府は「森林環境税」を新設する方針だ。

 23年度に終了する震災復興特別税を事実上衣替えし、24年度から個人住民税に1人当たり年1000円を上乗せする。年620億円の税収を見込む。

 国が森林面積に応じて自治体に配分するため、毎年数千万円を受け取るケースも出てくる。予算消化に追われ、不要不急の使途に流れる事態は避けねばならない。

 自治体には新制度の意図を十分踏まえた執行とともに、利用状況の詳しい公表が望まれる。

 37府県が既に、森林にかかわる地方税を独自に課している。新税との重複で、過剰な徴税にならないよう調整が要る。

 新税の使途には、森林保全や山村維持の観点も大切だ。

 国内林業は、安価な輸入材に押され、木材産出額が1980年の2割程度に落ち込んでいる。

 森林行政は、戦災の復興需要による乱伐で山地が荒廃したことを受けて植林を最優先し、産業の長期展望を欠いていた。

 作業用の林道が少ない。林業従事者は減少し、後継者育成の遅れで高齢化が目立つ。こうした構造的な問題は手つかずのままだ。

 木材の需要開拓も重要だ。木くずを燃やすバイオマス発電は有望だろう。断熱・耐震性に優れるビル向け集成板の普及など、官民の連携で活用促進を図るべきだ。