「全国民が負担」森林環境税検討

毎日新聞

森林保護を目的に全国民が年数百円程度負担することになる見通しの新税「森林環境税」(仮称)の導入が検討されている。導入の背景を探った。【浜中慎哉】

●自治体で先行

「森林の多くは手付かずで、ここ数年は台風などで大雨となった際に土砂崩れが起きている。村に林業の担い手も少なく、森林は荒廃の一途だ」。高知県東部の山あいにある北川村。人口は1342人(2月末時点)で、全面積の約95%が森林という小さな村の担当者は、深刻な事情を明かす。

かつては林業で栄えた北川村。しかし近年は過疎化の進行もあって森林の荒廃が急速に進む。村の森林は国有林と民有林が約半分ずつ。国有林は国が整備しているが、民有林は手入れされていないところが多い。手入れされていない山は保水力が低下するため、土砂災害が起きやすい。北川村では昨年9月、台風で大雨が降った影響で土砂崩れが起き、国道が一時通行止めになるなどの被害が出た。

北川村をはじめ、高知県は山間部の市町村が多く、県全体でも面積の84%が森林だ。荒廃が進む状況に高知県は2003年、全国に先駆けて県独自の森林環境税を導入。一律500円を住民税に上乗せして徴収し、年約1億7000万円を集める。徴収した税金は森林整備、鹿による被害への対策、林業の担い手育成を見据えた森林環境教育の費用などに充てている。

●急速に進む荒廃

だが、森林整備で県の森林環境税が使われるのは、所有者に整備する意欲のある森林が多く、所有者が整備を放棄した森林などは手付かずのままのところが多い。県の担当者も「県全域で見ると、整備が十分に行き届いていないのは事実だ」と認める。

この状況に、林野庁などは数年前から、森林を保全することで二酸化炭素(CO2)の削減につながり全国民が恩恵を受けるとして、国としても森林環境税を新設することを要望。当初、政府・与党では、高知県を含む全国37府県や横浜市がすでに同様の税制を設けていることから、「地方自治体の独自の税制と合わせると、二重課税になる」といった慎重論が強かった。

だが、森林の荒廃が急速に進む中、地方自治体などからの「国として早期に森林保全に取り組むべきだ」との声を受け、新税創設方針に転換。17年度税制改正大綱では「森林環境税(仮称)の創設に向けて、具体的な仕組みなどについて総合的に検討し、18年度改正で結論を得る」としており、北川村の担当者は「村の財政が厳しい中、国から森林保全にお金が出るのは、非常に歓迎すべきことだ」と話す。

●1人数百円?

ただ、新税の詳細が決まるのはこれからだ。地方自治体を管轄する総務省は4月21日、具体的な内容を話し合う検討会を初めて開催した。検討会の小西砂千夫座長(関西学院大大学院教授)は、都道府県などの独自の税制との併用を念頭に「新税を具体的に何に使うか、都道府県などの独自の税の使い道とどうすみ分けるかなどについて検討を進めていく」としている。高知県の森林環境税では企業など法人からも年間一律500円を法人住民税に上乗せして徴収しているが、新税で法人の扱いをどうするかも今後の検討課題だ。

国民の関心は、1人当たりの徴収額がいくらになるかだろう。都道府県などの独自の税制では年間300~1200円を個人住民税に上乗せして徴収している。その例を参考にすると、国の新税の徴収額も年間数百円程度になる可能性があるが、国民にとって過度な負担にならないよう慎重に議論される見通しだ。

過度の負担でなくなったにせよ、森林環境税は地球温暖化対策の観点からすべての国民から一律に徴収する見込みだ。近くに森林がない都心部などの住民の理解をどう得るかという課題がある。


森林環境税

地球温暖化対策として市町村の森林整備の支援を目的とする新税の仮称。地方税の個人住民税に上乗せする形で国が徴収し、森林保全が必要な市町村に再配分する仕組みが検討されている。政府・与党は2018年度税制改正大綱で税額や導入時期などを決める方針。

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