「木造中層」が花盛り ――耐火性能アップで普及加速―― 共同住宅、ホテルなど多様

「木造中層」が花盛り ――耐火性能アップで普及加速―― 共同住宅、ホテルなど多様 新潟で木造5階建て 国内初2時間耐火部材を採用

今、各地で木造耐火建築物が増えている。首都圏では、国や東京都が不燃化木造建築物を活用した木造住宅密集地域(木密地域)の不燃化を進めている。一方、地方では地域特性に合わせた木造住宅が出現している。しかも、5階建て共同住宅など特色ある建築物が生まれている。その背景には国産材の有効活用を目指す国の政策や、CLTなど新製材の性能アップなどがある。最近の動きを追った。

新潟では、木造5階建て賃貸マンションの建設が進んでいる。木構造メーカーのシェルター(山形市、木村一義社長)が開発した木質2時間耐火部材(間仕切り壁・外壁)を採用したもので、同社によると、すべて木造の5階建て建築は国内初という。総戸数は15戸(1K~1LDK)。8月に竣工する予定だ。

5階建てを建設する場合、建築基準法上、1階部分は2時間耐火構造とする必要がある。シェルターは木質耐火部材として、これまでに「柱」「はり」「間仕切り壁」で2時間耐火の国土交通大臣認定を取得している。加えて、昨秋に「外壁」でも取得したことで、今回の木造5階建てが可能となった。

鉄骨造や鉄筋コンクリート造が一般的だった中高層建築物に、今後は木造が広がる可能性が出てきた。

今回の賃貸マンション「yeniev(イニエ)南笹口」の建築主は、新潟市内で投資用木造賃貸住宅の施工や販売を手掛ける大和不動産。同社によると、投資家にとっては、木造は鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比べて建築コストが抑えられ、償却期間が短い点がメリットとなる。

2×4で耐火OK

延べ床面積9789m2、地上5階建ての耐火建築で、木造ツーバイフォー工法としては国内最大規模の特別養護老人ホーム「花畑あすか苑」が昨春、東京都足立区に完成した。入居定員140人、ショートステイやデイサービス、居宅介護支援事務所、地域交流スペースを併設した施設で、社会福祉法人聖風会が事業主となり、三井ホームが施工を請け負った。

ツーバイフォー工法は、04年に耐火構造の大臣認定を取得。日本ツーバイフォー建築協会によると、同工法による耐火構造建築物(耐火仕様使用許諾数)は累計3000件を超える。これまでのところ戸建てや共同住宅が主流だったが、近年は高齢者施設、幼稚園、工場や倉庫、ホテル、コンビニといった用途の多様化が進み、同時に面積の拡大や高層化も顕著だ。

同協会では、2時間耐火についても既に主要構造部(外壁、床、間仕切り)の大臣認定を取得済み。今年度中に、開口部やスイッチ・コンセント回りなどの耐火性能の確認を終え、設計指針等もまとまる予定。既に6階建ての実大実験棟も建設され、現在、性能試験に取り組んでおり、高層の実用化もめどがついた状況だという。

大型建築物の施工については、ツーバイフォーパネルを生産、供給しているコンポーネント会社が建て方までを請け負う体制も整っており、大型化、高層化の流れは今後、ますます広がっていくとしている。

各団体が普及図る

木材の耐火加工技術の進歩を受けて行われた00年の建築基準法改正により、木造建築にかかわる団体も耐火材の大臣認定を取得し、公開することで中高層建築の普及を図っている。

日本木造住宅産業協会(木住協)では、06年までに主要構造部の1時間耐火大臣認定を取得し、マニュアル講習会を定期的に開催。修了者には大臣認定書の写しを発行しており、16年度までに累計2180枚を発行した。特に近年では、14年度の発行数282枚に対し15年度は388枚、16年度(2月末)には439枚と大幅な伸びを見せており、木造建築の需要が加速している様子がうかがえる。

そうした状況を受け、木住協は2時間耐火の大臣認定取得も進め、3月に主要構造部について認定取得し、また性能評価試験にも合格。5階建て以上の純木造建築の普及へ向け、4月から2時間耐火でも講習会を開始した。

また日本集成材工業協同組合(日集協)では、鋼材を木の集成材で覆った「木質ハイブリッド集成材」の実用化を進め、05年までに4品種で1時間耐火の大臣認定を取得。これまでに、鉄骨造やRC構造、SRC構造と木質ハイブリッド構造とを組み合わせ、4階建ての「大分県立美術館」や5階建ての「丸美産業本社ビル」(愛知県)など比較的大型な建築物の実現に結び付けてきた。現在は国内初の7階建て木質ビルとして、住友林業が施工する「フレーバーライフ本社ビル」(東京都・10面に関連記事)も建設が進んでおり、より自由度の高い木質建築として普及が期待されている。

CLTの広がり

また、国土交通省は昨年CLT(直交集成板)を用いた建築物の一般設計法を策定し、告示を施行した。告示に基づく構造計算や仕様に従って設計すれば、それまで建築物ごとに大臣認定を受ける必要があったのが、個別に受けなくても建築確認が下りる。

板や周りの材を貼り合わせて作られるので、これまで捨てられていた部分も利用でき、国産材の有効活用となる。耐火についても、モルタル、石膏ボードや薬剤などでコーティングして2時間耐火構造となる製品が誕生。大臣認定を受け、様々な建築現場で活躍している。

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こうした民間や団体の積極的な取り組みにより、日本の木材自給率は、00年には18.2%だったのが33.3%(15年木材自給率・林野庁発表)まで回復した。国は20年までに50%に引き上げる目標を掲げている。今後、木材の更なる活用から目が離せない。

建設中の木造5階建て賃貸マンション(3月の上棟見学会で)