新耐震でも倒壊…木造住宅に簡易診断 81年~00年築

写真・図版2000年まで明確でなかった規定

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 新耐震基準で建てられたものの、耐震性が不十分なケースがあると指摘されている1981~2000年築の木造住宅について、国土交通省は簡易に診断できる手法の導入を決めた。この期間は接合部の強度などの規定が明確でなく、1年前の熊本地震で倒壊などの被害が相次いだのがきっかけ。民間の調査では「8割が耐震性不十分」とのデータもある。

新手法では建材がつながれている部分の強さや、壁の配置バランスを重点的にチェックする。81年の建築基準法改正で「震度6強~7でも倒壊しない」耐震性が義務化されたが、これらの点は00年までは規定が具体的に定められておらず、問題が潜んでいる恐れがあるためだ。対象は、安全性を検証する構造計算書を行政機関に提出する必要がなかった2階建て以下の住宅とする。

総務省統計局によると、こうした住宅は全国で推計約955万戸(13年時点)。住宅総数の6分の1弱にあたる。

まず新手法でポイントを絞って調べ、耐震性に疑問があれば通常の耐震診断に回す。現在、具体的な方法は日本建築防災協会が検討中で、リフォーム会社などによる活用が想定される。

ログイン前の続き昨年の熊本地震に関する国交省の有識者会議の資料によると、被害が大きかった熊本県益城町では、81年6月~00年5月建築の木造住宅877棟のうち76棟(8・7%)が「倒壊・崩壊」、85棟(9・7%)が「大破」した。28・2%が倒壊・崩壊、17・5%が大破した81年5月以前の建物に比べれば低いが、00年6月以降の建物の2・2%、3・8%と比べ、被害が目立った。

熊本地震を受け、国交省は81~00年築の戸建て住宅の耐震診断や改修に各自治体が補助を出しているかも初めて調査。診断費を補助対象にしているのは全体の約5%にあたる92市区町村、改修費は87市町村にとどまることが分かった。

国交省は、81年以降の建物でも自治体の判断で補助対象にできることを説明するなど、各自治体に対応を促している。

■「8割が耐震性不十分」

全国の工務店などで作る日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)=東京都=は、1981~2000年築の2階建て以下の木造住宅について「8割が耐震性不十分」として注意を呼びかけている。

加盟約1千社が06~16年に手がけた住宅耐震診断のデータを集計したところ、対象の住宅1万2851棟中、7990棟(62・2%)が震度6強クラスで「倒壊する可能性が高い」、2901棟(22・6%)が「倒壊する可能性がある」とわかったという。

80年以前の住宅ではそれぞれ84・2%、12・8%。新耐震基準導入の効果は裏付けられるが、耐震性が十分と言えない現状がうかがえるという。

住宅の所有者へのアンケートでは「倒壊する可能性が高い」と診断された1091人の回答者のうち、補強工事に踏み切ったのは375人にとどまっていた。木耐協は「現行の耐震診断でも接合部仕様や配置バランスが評価項目になっているが、補助対象は81年以前。ちぐはぐな状態になっている」と指摘する。(赤井陽介

■福和伸夫・名古屋大学減災連携研究センター長(地震工学)の話

この期間の住宅は老朽化が進んでいることもあり、新耐震基準だから大丈夫ということにはならない。壁のバランスが悪いと地震で弱い側がより大きく変形し、建物は揺れながらねじれる。揺れで大きな力がかかる接合部は、留め方が弱いと外れてしまう。いずれも揺れへの強さを決める重要なポイントで、適切な対応が必要だ。

〈新耐震基準〉78年の宮城県沖地震をきっかけに建築基準法令が改正され、81年以降の建物は「震度6強~7でも倒壊しない」耐震性が新基準として義務化された。だが、建材をつなぐ金具の留め方や壁の配置バランスについては、阪神・淡路大震災を受けて00年に改められるまで明確にされていなかった。