熊本地震で課題となった木造住宅の耐震性。住宅被害を踏まえ作成されたのが「新耐震検証法」だ。1981年から2000年に建てられた木造住宅を対象としたもので、簡易なチェックに基づいて耐震性能を検証できる。効率的な検証が目的だが、適用時の課題も少なくない。(日経ホームビルダー2017年8月号の記事を再構成した)
熊本地震から1年余りを経た2017年5月16日、既存木造住宅の耐震性評価に新しい仕組みが登場した。日本建築防災協会が公表した「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法(以下、新耐震検証法)」だ。
図面があり、一定のチェックを所有者などが実施することを条件に、専門家の現地調査を省略して効率的に検証する。国土交通省の要請を受け、同協会内の「木造住宅等耐震診断法委員会」(委員長:坂本功・東京大学名誉教授)が作成した。
国土交通省住宅局建築指導課の松本潤朗企画専門官は次のように話す。「専門家の現地調査を伴う従来の耐震診断は、非破壊調査を前提とする一般診断法でも約10万円以上の費用がかかるといわれる。新耐震検証法では所有者の負担を減らし、耐震化へのハードルを下げたい」
熊本地震の被害に差
新耐震検証法は、1981年6月から2000年5月までに建てられた2階建て以下の木造住宅(以下、81~00年住宅)を対象とする。言い換えると、新耐震基準の導入後で、接合部や壁の配置バランスの規定が明確化される以前に建てられた建物だ。00年6月以降の木造住宅に比べて耐震性を不安視する声は、以前から専門家の間で出ていた。
熊本地震で国土交通省がまとめた悉皆調査の分析は、実態を浮かび上がらせるものだった〔図1〕。
81~00年住宅で無被害だった比率は20.4%で、00年6月以降の住宅の61.4%とは大差が生じた。一方、81~00年住宅が大破や倒壊・崩壊した比率は、旧基準建物の4割にとどまっている。調査した委員会は、新耐震基準の有効性を認めつつも、81~00年住宅への対策の必要性を指摘した〔写真1〕。
新耐震検証法は、こうした被害実態を踏まえて検討が進められた。
現在広く利用されている木造住宅の耐震診断法は、日本建築防災協会が作成した。専門家が行う診断法は3種類あり、建築基準法や耐震改修促進法にひも付けられている。一方、新耐震検証法は法的に位置付けられていない〔図2〕。そのため、既存建物を増改築する際、既存部分の耐震性評価に新耐震検証法は使えないので注意したい。