ナラ枯れ、30府県に広がる 原因は体長数ミリの虫
ナラ枯れ、30府県に広がる 原因は体長数ミリの虫
今直也
2016年8月28日22時59分
コナラ、クヌギなどブナ科の広葉樹が枯れる「ナラ枯れ」と呼ばれる現象が、今年も確認されている。原因は幹に入り込む小さな昆虫に付いた菌。昨年度は全国30府県で確認され、大阪府や奈良県などでは被害が増えつつある。効果的な防除は難しく、関係者は頭を悩ませている。
大阪府四條畷市の大阪府民の森むろいけ園地。指導員の木島大介さんに案内してもらうと、葉が赤茶色に変色した木があった。今年枯れたコナラだ。樹齢70~80年とみられる。
幹の所々に粉のような木くず。カシノナガキクイムシ(カシナガ)が幹に穴を開けて入った跡だ。「粉が出たと気づいて4、5日ほどで枯れた」と木島さん。園地では2年ほど前からナラ枯れが確認された。カシナガの活動が活発化し、今年も6月下旬から枯れが目立つようになった。
狙われやすい大木だけでなく、比較的小さな木も枯れる。歩道を進むと至る所にカシナガが入った穴があるコナラがあった。歩道に枝が落ちるとけがをする恐れがあるので伐採するが、重機が入りにくい場所は運ぶのも難しく、その場で焼くことも出来ない。放置された木からカシナガが大量発生して被害を広げる恐れがある。「幹に残った虫を殺すためにも燃やせればいいが、切ったままにするしかない状況だ」と飯尾喜祐所長は言う。
府自然環境保全指導員の渡辺晋一郎さんによると、交野市では2010年ごろから被害が確認されるようになった。「昨年は交野の山で数千本のナラ枯れが起きたと見られる」
同市にある大阪市立大理学部付属植物園は、12年に専門家らが情報を共有する研究会を始めた。侵入を防ぐため高さ2メートルまで幹にネットを巻き付ける。ただ1本ずつ対応する必要があり、人や予算の十分な確保は難しいのが現状だ。
■景観にも影響
森林総合研究所によると、ナラ枯れは1980年代末以降、本州の日本海側を中心に被害が確認されるようになった。東京都の伊豆諸島や長崎県対馬市、鹿児島県の奄美大島などでも被害が確認されたことがある。戦後、石油やガスが普及し、燃料として薪があまり使われなくなった。木が伐採されず放置された結果、カシナガが好む太い木が増え、被害が増えたと考えられるという。
林野庁によると、15年度の全国のナラ枯れの被害量は30府県で7・6万立方メートル(速報値)。大阪や奈良では、14年度と比べて3倍以上に増えている。全体では10年度の32・5万立方メートルをピークに減少傾向だが、森林総研関西支所の衣浦晴生・生物被害研究グループ長は「被害がいったん広がり、カシナガが好む太い木が大量に枯れて減ったため」と分析する。
国立公園の山林や景観地でも被害が出ている。
鳥取県は、大山隠岐国立公園で被害が出ており、大山山頂を中心とした半径10キロの範囲を重点対策区域と定めた。伐採と薬剤を使った駆除など集中的な対策を進めている。
京都市では京都三山(東山、西山、北山)でも見つかり、景観に影響が出た。10年には1万本を超える被害があったが、昨年は数百本で、市は収束しつつあるとみている。枯れた木を伐採、燻蒸(くんじょう)してカシナガを駆除するなどの対策も効果があったという。枯れた場所に植樹する取り組みも始まっている。
森林総研の衣浦さんは「山のナラ枯れ対策を進めるのは簡単ではない。森の文化的な価値をどう守っていくかを含めて考えないといけない」と話す。(今直也)
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〈ナラ枯れ〉 コナラやミズナラなどナラ類の木の幹に、カシノナガキクイムシという体長数ミリの昆虫が穴を開けて入り込むことで枯れる現象。虫についたカビの一種「ナラ菌」が幹に入り、水の通りを悪くすることで枯れる。シイ・カシ類が被害を受けることもある。1980年代末以降、本州の日本海側を中心に被害が広がった。木の幹に虫の侵入を防ぐシートを巻いたり、幹に殺菌剤を入れたりする予防法があるが、根本的な被害防止は難しい。