JAS製材はなぜ普及しないか? 日経ホームビルダー 2010年の記事
JAS製材はなぜ普及しないか?
荒川 尚美 2010/10/04 03:00
消費者が、木材の品質や性能を求めるようになってきた。下のグラフは、木と住まい総合研究所が「2010年住まいの耐震博覧会」に来場した見込み客1057人に実施したアンケートの回答だ。「木材にどのような特徴を求めるか」と聞いたところ、7割が「品質・性能」と答えた。
建築のプロも、木材の品質や性能を求めている。日経ホームビルダーがケンプラッツ登録者である建築のプロ247人に、木材への不満や疑問を聞いたところ、乾燥材に対する「割れや収縮、変形、もろさ」がトップになり、「材の品質基準・品質管理・ばらつき」がそれに続いた。
ところが、市場には品質や性能の不明瞭な製材があふれている。品質や性能を規格に基づき確かめて、表示しているJAS製材は、市場に流通する製材全体のわずか2割だ。構造用集成材はほぼ100%がJAS材であることと比べて、極めて低い割合だ。
JSA材の品質や性能基準に課題がないわけではない。しかし、JAS材を使うことが木材の不満や疑問を減らす第一歩のはずだ。
普及を阻む四つの理由
製材工場がJAS材をつくらない理由は明快だ。第一に、JAS材を製造するのに初期費用と年間検査費用などがそれぞれ数十万円以上かかること。
第二に、品質を確認して表示するという製造管理の手間がかかること。
第三に、JASでない乾燥材との価格差がないこと。東京中央木材市場(浦安市)が算出した参考価格が示している。
第四に、補助金の支給条件になる、製材に不具合があるとJASによって補償されるといった特典がないこと。
「わざわざ設備投資したが、注文がほとどんない。認定費用が高くなったので、JASの認定工場の登録をやめた」という声も、複数の製材工場から聞いた。
コストや手間がかかるのに、JAS以外の材と同じ価格で、注文もこないとなれば、製材工場がつくらなくなるのは当然だ。
普及率を上げる効果的な方法
他方、JAS材の生産量を増やしている製材工場もある。最大手の協和木材(福島県東白川郡塙町)がその一つだ。JAS材の生産量が7割に達するという。社長の佐川広興さんは、「大手住宅会社などが直接注文してくるケースが増えたために増産した。集成材と競争するのにJASが欠かせない」と話す。
「注文がほとどんないからJAS認定工場の登録をやめた」「大手住宅会社が直接注文してくるケースが増えたために増産した」という声が示すように、JAS材の普及率を上げる最も効果的な方法は、住宅会社が製材工場にJAS材を積極的に注文することだ。
5月に公布された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に基づき、国や地方自治体は現在、公共建築の設計基準の見直し作業に当たっている。国や地方地自体には、JAS同等品ではなく、JAS材を発注条件にすることを期待する。
JAS材の製品価格を、JAS以外の乾燥材より少しでも高くすることも、製材工場がJAS材をつくる意欲を高めることにつながる。
JAS材のm3単価を、JAS以外の乾燥材より3000円を高くして、1棟分の構造材の目安使用量(16m3とする)に当てはめると、コストアップ分は4万8000円になる。
建設費に占める割合はわずかだ。強度などの性能が明確で、狂いの少ない材であることを説明すれば、JAS材を望む顧客は少なくないだろう。
<訂正>初出時にJAS材のコストアップは4万800万円とありましたが、4万8000円の誤りでした。(2010年10月4日10時50分)
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