東日本大震災及び、福島の原発事故をきっかけとして、消費者の意識は省エネや自然エネルギーに向かっている。この状況の中、経済産業省は2月24日にスマートハウスの標準化に向けた検討会でとりまとめを行った。このスマートハウスに関しては、以前にもこのTopicsで取り上げたが、今一度検証を行う事で、住宅産業がどのような方向に導かれようとしているのか考察してみる。
経済産業省は二十四日、エネルギー消費を最適にする次世代の省エネ住宅「スマートハウス」の普及に向け、家電と次世代電力計(スマートメーター)などがデータをやりとりする通信方法の標準規格を定めたと発表した。
スマートハウスでは、家庭のエネルギー管理システム(HEMS)と呼ばれる機器がエアコンなどの家電、太陽光発電、蓄電池、電気自動車やハイブリッド車を一体で制御。使用状況を刻々と電力供給者に知らせるスマートメーターと連動して需要のピーク時には電力使用量を抑えたり、売電したりできる。
これまでは標準規格がなく、スマートメーターや対応家電の製品化が進まなかった。東日本大震災後、節電への意識が高まり経産省は昨年十一月に検討会を設置。東京電力とシャープなど電機五社が中心となって昨年八月に制定した「エコーネットライト」を標準規格として決めた。
これまで報じられてきたスマートハウスに関して、ゼロエネ住宅等との違いなど理解しにくい点が多かったが、今回の東京新聞の記事(特に上記イラスト)から、スマートメーターとHEMSによる、家庭内での消費電力のマネジメントシステムである事が推測できる。対して、ゼロエネ住宅はHEMSを装備した上で、創出エネルギーと消費エネルギーのバランスを均衡させたものと理解できる。
このスマートハウス及び、ゼロエネ住宅の要となるエネルギー管理システムHEMSについて、もう少し詳しく書かれた記事があったので以下に転記する。
スマートハウスに不可欠なものとして知られる「HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」。今後も進化し続けるであろう、このシステムはいったいどのようなものなのであろうか。
「スマートハウス元年」と呼ばれた2011年。その代表的なモデルが、昨年8月に積水ハウスが市場に投入した「グリーンファースト ハイブリッド」だ。世界初の3電池(太陽電池・燃料電池・蓄電池)を搭載した住宅商品で、同社オリジナルの「HEMS」を搭載し、3電池の連動制御を実現している。そしてそれ以降、後を追うように、いわゆる"スマートハウス仕様"の住宅は各ハウスメーカーより市場に投入され、普及へと向かって走り出している。
そのスマートハウスにおいて電力を制御し、効率的なエネルギーマネジメントを行うためのシステムが「HEMS」なのだが、市場では"電力の見える化"の機能だけしか備えていないものも少なくない。このタイプは、家庭内に設置されたシステム機器であるモニターに消費電力の単位などを表示し、住まい手自身に節電を即すことが主な役割であり、電力を制御することはできないものが多い。
しかし、「HEMS」の本来の機能は、家庭内で利用するエネルギーのマネジメントである。深夜電力充電などを行うコントロール機能によってコストメリットを出したり、非常時給電システムと組み合わせて、停電時の電力供給を行ったりすることができるのが「HEMS」。普及しつつあるスマートハウスには、"電力の見える化"だけでなく、これらの機能が不可欠だ。
だが、「HEMS」の進化はこれで終わりではない。次世代電力メーターである「スマートメーター」と連携し、"スマートグリッド"や"スマートタウン"へ発展していくという未来の低炭素社会を目指すためには、更なる進化が必要だ。
その進化した「HEMS」とは、全てのメーカーの電気製品までもコントロールし、家庭内の電力を最適な状態に制御することだ。現在、その実現に向け、政府、関連企業・団体の動きが活発化しようとしている。
昨年7月に立ち上がった「HEMSアライアンス」は、その市場確立と普及を目的とし、東芝、NEC、パナソニック、日立製作所、三菱電機、シャープ、ダイキン工業、KDDI、三菱自動車、東京電力の10社が参加している。この共同検討体制が進めるプロジェクトの中でも一番注目されるのは、他メーカー間の機器で「HEMS」を作動させるための枠組みやガイドラインの策定だ。3年以内に何らかの成果を残したいとする同団体の動きは注目だ。
一方、経済産業省は官民合同でスマートハウスの普及を目指し、そのために必要な「HEMS」と家庭用機器とのインターフェイス標準化や「スマートメーター」導入加速化を検討するために「スマートハウス標準化検討会」を設置した。検討会の中には、積水ハウスや大和ハウスなどの大手住宅メーカーやトヨタ、日産などの自動車メーカーら11社から構成された「HEMSタスクフォース」と東京電力などの電力メーカー、東京ガス、大手家電メーカーら14社で構成された「スマートメータータスクフォース」が置かれ、それぞれの機器の視点で随時会合を行い、導入普及のための体制を検討している。
既に、その成果として昨年の12月16日に『エコーネットコンソーシアム』が開発した「エコーネットライト」を「HEMS」の標準インターフェイスとして採用することが経済産業省より発表された。また、同月21日には一般公開もされており、誰でも「HEMS」関連の事業に携われるようにもなった。
様々な関連団体が入り交り、分かりにくい部分があるのも確かだが、いずれにしても今年は「HEMS」の進化と、関連するエネルギーシステムや機器の動向から目が離せなくなりそうだ。
上の記事を読み進めると、後半部分で、このHEMSなりスマートハウスを大手企業が主体となって推し進めている事が見て取れる。それは家電メーカーに留まらず、エネルギーや自動車業界までもが含まれている。
このスマートハウスの本質は、家電や設備機器の集約化であり、ハウスメーカーとの連携によるこれら「家電・設備集約住宅」のセット販売を持って、地域に根差した地場工務店・ビルダーが主体を成す住宅産業(大手ハウスメーカーのシェアは2割程度と言われている)において、大手連合による寡占化を目指すものではないだろうか?
事実、スマートハウスの推進を共通テーマとして、積水ハウスと日産自動車、住生活グループとシャープ、積水化学とNEC、ヤマダ電機とエス・バイ・エル・・・等、多くの大企業連携が進んでいる。
これから述べる事項は、筆者の個人的見解である事を、前もって断った上で記述する。
大手企業が省エネ・エコに取り組む事は必然である。又、大手メーカーが技術の粋を結集して優れた省エネ・エコ商品を開発・提供してくれる事は大歓迎である。しかしながら、巨大資本が「省エネ・エコ」を錦の御旗に地域の地場工務店・ビルダーを飲み込んでいく構図には疑問を感じる。成長の望めない市場の中で、弱者を追いやりながら成果獲得を図る大手企業の姿が想像される。
元来、大資本は、自らの繁栄を目的に、ユーザーに対して大量消費と大量廃棄を押し付け続け、それが「文化」とまで言われる事となった。ユーザーはその「悪しき文化」を豊かさであると錯覚してきた。そして先進国における大量消費文化が、近代の戦争の多くの場合の根源的原因である。現在の日本においては、その「文化」が行き着いた成れの果てが福島の現状である。
(個人的見解ここまで)
今後の日本経済を省エネ・エコロジー関連産業がけん引していく事は、大所高所から見て、好ましい事ではある。ただし、これらを包括する「持続可能な循環型社会の形成」の観点において、多様性を認めた上で成立する事が、持続の大原則であった筈だ。現行のスマートハウスは、物理的、数値的効果を獲得する上では有効なシステムであると思われるが、権益者である大手企業の連合体によって進められた標準規格化と称する規制制度において、持続性の点で疑問が存在する。
今後の日本の産業構造として(特に省エネ・エコ関連産業)望まれるのは、多様性を理解した上で、一極集中型ではなく、地域型経済により地方が活性化され、フェアーな分配が行われる事であろう。その為には、地域に根差した地場工務店・ビルダーが、これまでより一層の努力を重ねる事で、地域における住宅産業界の主体者で有り続ける事を死守しなければならない。
地場工務店・ビルダーが大手企業のスクラムに対抗する為に何が必要かを考察する。前回、このTopicsでスマートハウスを取り上げた折に、工務店連携の組織化を提案したが、それはあくまで対抗手段の一端にすぎない。今回はもう少し根源的な部分での考察を行う。
上記を兼ね備えた地域密着型工務店に成るには、一長一短では無理であろう。しかし、その気概を持たずして将来はあり得ない。退場するしかない。事実、着工戸数が減少している今現在、そのあおりを一手に受けているのは、能力が不足している零細工務店である。
地場工務店・ビルダーの中には(特に地方ビルダー)大手ハウスメーカーの手法をビジネスモデルにした上で、割安感を武器に規模の拡大に努めてきた会社が存在している。この中には成功した例もあるが、住宅着工戸数が減少し、尚且つ、人口減少等厳しい予想がされている現状で、この方針を維持できるかは疑問である。特別な強みを持たなければ、より大きな力に吸収されるだけである。分譲型の工務店・ビルダーも同じ状況である。建てれば売れる時代は昔に終わっている。条件の良い土地を確保できても、見合った建物(大手メーカー対抗可能な建物)を提供できなければユーザーの信頼は勝ち取れない。
前回の記事で述べた工務店の連携については、上記気概を持たない工務店の連携組織では、烏合の衆に終わる事は容易に想像できる。気概を持つ業者同士の連携にのみ、規模メリットは発生する。今回述べた事は、スマートハウスに関する大手スクラム連合に対抗するだけの話では無い。地域密着型の中小工務店が今後の厳しい住宅産業界を生き残るための一考察と理解頂ければ幸いである。
最後に、果たしてユーザーは「省エネ」を志向しながらも、このスマートハウスを選択するだろうか? 日経ホームビルダー2月号に昨年末時点でのユーザーの意識調査があったのでリンクを貼る。結果を見て、どのような判断されるのかは、皆さんに委ねる。
SSDプロジェクト事務局 渡邊豪巳