自然エネルギーが見直され、太陽発電パネルの設置住宅は新築だけに留まらず、既存の住宅に新たに設置する人も増えている。しかし、設置した屋根の雨漏り等の相談も増えている。
国民生活センターに寄せられた相談件数が2009年度末時点で前年度の約3倍と増えている。この時点で、太陽光発電パネルの設置が増えたのは、補助金の導入と、電気の買取り価格が上がったこと等に起因している。その後の東日本大震災と原発事故の発生から、自然エネルギーが見直されたこと等により、その設置数は、現在に至るまで、急激に増え続けている。それにともない、苦情などもかなり増えていると言われている。
特に、屋根に後付けする場合の雨漏りリスクが多いようで、パネルの架台を垂木などの構造材に固定していないなどの初歩的ミスが原因としてあげられている。メーカーや業界団体も、マニュアルの作成や施工業者への指導等の努力を行っているものの、個々の現場の状況・条件が異なるなどから、徹底した取り組みが出来ない事情がある。
既存の住宅に設置する場合には、建物の状況判断(構造躯体や屋根の劣化等)や雨仕舞等の建築に関わる知識及び技術を必要とするが、設備系の業者の中にはこれらを満たしていない者が存在している現実がある。工事を依頼する際には、先の業者の技術力を十分に確認する必要がある。又、万が一の事も考慮して、保証制度や経営内容等にも気を配る事が肝心である。目先のコストや巧みな宣伝に惑わされることなく、信頼できる業者を選択する事が太陽光発電導入の為の必須条件となる事を理解していただきたい。
平均的な発電能力3kw用のパネルの重量は、約360㎏にもなる。既存の建物は、後々屋根の上にこれだけの重量が乗る事を想定して建てられているのか?… 多くの場合の答えはNoである。又、仮に十分な耐力を考慮した建物であっても、気付かない場所での雨漏りの存在等で、構造躯体の劣化が進んでいれば…それもアウトである。現実には、既存の木造住宅の80%以上に耐震性の不安がある調査結果(木耐協:2011年8月発表データ)が存在している。
実際には、屋根に300㎏を超える荷重を架けても、ただちに影響が出る事は無いであろうし、そのような不具合の報告も見当たらない。しかしながら、安易にパネルを設置することで、近い将来に発生が確実視されている大きな地震に対して、安全が保てるのか?…筆者としては疑問を抱いている。
そして、この疑問は、既存の建物への設置に限られる事ではない。
当方で、日常的に行っている「木造住宅の構造計算」において、屋根に20㎏/㎡(パネルの1平方メートル当たりの想定荷重)が掛る事を考慮して計算を行えば、当然のことながら、荷重の無い場合とは異なった結果が出る。例を挙げると、母屋(もや:屋根を構成する構造部材)における材料の寸法を、一般的な寸法(105角)よりも大きくする事(105X120or150)や、適切な耐力壁の配置等が計算結果から求められる。これに対して、2階建て以下の木造住宅の殆どが、構造計算による建物強度の評価を行っていない現実がある。実際に、寸法150の母屋を積雪地域以外で使用しているケースが、果たしてあるのだろうか?…構造計算を行わずに的確な屋根荷重を考慮する手立てが、現実問題として、存在するのだろうか?… 大きな地震が発生する事を想像すると、一抹の不安を感じずにはいられない。
原発事故を機に太陽光発電は、住宅業界内において近年稀にみるヒット商品となりつつある。最近では、家電量販店やホームセンターのリフォームコーナー、更にはネット上でも取り扱いされるようになってきた。上述のように、本来なら、建築の専門知識を必要とする筈の事業に、専門外の事業者が新規参入している事も不安の一要因である。
既存の建物に設置する際には、その建物の強度を確認する必要がある。この強度(耐震性能)確認を行うには、相等の建築知識と判断能力を有している事が必須である。もし、建物の外観を見ただけで「大丈夫」と判断する業者がいれば、疑ってかかる事を進言する。願わくは、正式な診断士による「耐震診断」を受ける事をお勧めする。仮に、診断結果から耐震補強工事が必要となり、経済的な問題から、計画を断念する結果になろうとも、マイホームの耐震性能を知る事は安全確保の上で有意義な事と考える。建物に不具合がある時に投資すべき先は、太陽光発電ではなく、「生命と財産を守る事(安全の確保)」である。
新築の場合に行うべき事は、業者に対して、太陽光発電の荷重の考慮内容の説明を明確な根拠と共に求める事である。その根拠を示す為の有効な手段の一つとして構造計算があるが、その場合には、一般的な例として、一件当たり約15万円程度のコストが発生する。ただし、このコストについて、それによって得られるメリット(安全・安心確保)の重大さから、あえて「僅かな金額」と表現する。おそらく、建物全体金額の1%に満たない額であろう。この僅かな金額を節約する事により、万が一の事態に、せっかくのマイホームが凶器となってしまう悲劇を起こしてはいけない。仮に、屋根荷重の明確な根拠を示す事の出来ない業者がいたとすれば、家づくりを託す事を再考する事が賢明であろう。
太陽光発電を導入する事は、将来の地球の為にも、現代人が生活する上においても、大変意義のある行為である。ただし、その際に、些細と思われる事項であっても、曖昧な判断や誤った判断が介在することで、知らないうちに、家族や自分自身を潜在的な危険にさらす事になりかねない。計画を進める上で熟慮を重ねる事により、太陽光発電が本来有している意義とメリットを享受される事を願う。
SSDプロジェクト事務局 渡邊豪巳