昨年後半に、首都圏での非住宅案件の木造化についてのニュースを紹介した。これらは、国が2009年に「森林・林業再生プラン」を策定して10年後の木材自給率50%以上を目指し、低層の公共建築物の木造化・木質化の推進に関する法律を施行する等(2010年)の具体策を持って示した方針に沿った動きである。
野崎まいり公園コミュニティーセンター多目的ホール SSDランバーを構造部材に採用 平成18年 菅家設計室 |
住友林業(株)(本社:東京都千代田区、市川晃社長)は、国土交通省による2010年度第1回「木のまち整備促進事業」採択プロジェクトの3階建て有料老人ホーム「グランダ多摩川・大田」(東京都大田区 延べ床面積:1997.11m2)を完工引渡し、2011年12月1日にオープンした。
「木のまち整備促進事業」は、再生産可能な循環資源である木材を大量に使用する建築物の整備によって低炭素社会の実現に貢献するため、先導的な設計・施工技術を導入する大規模木造建築物の建設に対し、その費用の一部を補助される。
老人ホームを木造建築にすることによる。り、木質感を活かし、入居者の精神的安定を確保すると共に、耐火構造により安全性も確保。RC造と比較して、転倒事故による怪我が軽減されるという報告もある。
東京都内の小・中規模の建築物を木造で建てる動きが目立っている。建築構造設計の東昭エンジニアリング(神奈川県横浜市)には、今年に入り小・中規模の木造建築物の構造計算の依頼が増えているという。軸組み工法、ツーバイ工法どちらも増加しているという。
同社が構造計算を行った木造耐火構造3階建てのグループホームが、このほど東京都葛飾区宝町で上棟。同ホームは、地域密着型介護施設で延床面積は762.23m2。カネシン(東京都葛飾区)の金物工法「プレセッター」を採用している。
上で紹介したニュースの内、住友林業㈱の有料老人ホーム案件は、記事にもあるように、平成22年度「木のまち整備促進事業」に採択された事業で、同社内において、国の方針に則り新規設立された「木化推進室」の第一号案件である。同推進室では現在、被災地(陸前高田市)の復興施設等を手掛けている。今後、これら中小規模の施設における木造化・木質化が拡がる事は確実視されている。当会(SSDプロジェクト)においても、本年、大阪府木材工場団地協同組合(堺市美原区)の50周年事業である飲食施設の建設計画に、当会会員建築家(DID式田完氏:意匠設計担当、明月社山岸飛鳥氏:構造設計担当)と共に参加し、SSDランバー(国産無垢品質表示材)及び関連技術を提供する予定である。
これら、木造化・木質化の動きは、現段階では、前出のように住宅メーカーや、大手設計事務所が中心となって進められており、これまで木構造とは一定の距離を置いていたゼネコン等も注目している。
対して、今日まで国内において、住宅分野を中心として木造建築を担ってきた地域密着型の建築業者(工務店・ビルダー等)が取り組むには、同じ木造でありながらも、住宅とは異質の木構造技術(大空間対応の構造計画、防耐火性能、綿密な構造計算等)への対応や、各種施設計画のノウハウ等の設計能力、施工における品質等の管理能力など、克服すべき課題が数多くある。この課題に一工務店単独で挑戦する事は、現状において、困難であると予想される。また、木構造や施設設計に長けた設計者や、木構造用部材・関連技術を提供できる供給者等とプロジェクトを構築するには、全体をプロデュースする能力も必要となる。
工務店等が、これらに取り組むために、まずは、信頼できる設計者や木材及び技術提供者とめぐり合う事が、前提条件となる。
住友林業㈱が設計施工を行った有料老人ホームについては、構造にツーバイフォー工法を採用し、国産材活用においては、内外装に不燃処理を施した国産杉加工品や国産ヤマザクラ無垢フローリングを使用している。(住友林業㈱HP:ニュースリリースから引用)
住友林業HPより
もう一方のニュースで紹介しているグループホーム案件については、木造ながらも、金物による接合工法を採用している。この事から、必然的に構造用木材は集成材を使用する事となり、その集成材の主流は、ホワイトウッド、レッドウッド、米マツ等の輸入材である。
これらの規模の建物には、一般的な住宅案件 (2階建て以下尚且つ、500㎡以下) とは違い、構造計算等で、必要十分な建物強度の確保を明確に示す義務がある。この時に、使用する構造用部材の品質が曖昧であると、採用できないのが道理である。国産構造用部材におけるJAS認定材や集成材の割合が低いことから、木材需要者側(設計者、建設業者等)に、品質面での信頼を得られていない事が容易に想像できる。国の方針である木造化・木質化の目的には、木材自給率の向上が含まれているにも関わらず、国産木材が構造用木材として使用されていない現実を国産木材供給者は真摯に受け止める必要がある。
施設における木造化・木質化の目的の達成には、国産材を構造用部材として活用する事がより大きく貢献出来るものと考える。では、国産材が構造用部材としての信頼を獲得するために、国内木材供給者が取り組むべき課題等を考察する。
国が「森林・林業再生プラン」で示した方針に対して、一部の大手供給者を除いて、大半の木材供給者は対応出来ていない。木造化・木質化の動きについても、敏感に反応しているのは建築関係者が主で、林業関係者の多くが国の方針に対して傍観している現実がある。国産材の需要低迷期に地道な技術開発等、改革の努力をしてこなかった事が傍観せざるを得ない原因である。1990年代初めのウッドショックで輸入材全般が高騰した時に、国内供給者は、需要の拡大を期待しつつも、木材乾燥等の技術開発を疎かにした結果、欧州 (ヨーロッパ) 材にとって代わられた苦い経験を持ちながらも、同じ過ちを繰り返す事を危惧する。
国産木材が構造用部材としての信頼を獲得するためには、品質性能を確保し、それを保証して提供しなければならない。その為に2通りの方法が考えられる。一つは、国産無垢構造材に品質確認(強度及び含水率:グレーディング)の上、選別して、JAS認定材等として提供することであり、もうひとつは、既に一部大手供給業者が取り組んでいる、国産木材を集成材に加工する方法である。
前者については現状、殆どと言っていいほど取り組みが進んでいない。国産無垢材の品質に関する技術(木材乾燥等)の開発がいまだに確立されていないことがその要因である。木材自給率が低い状況下での国産材の流通量に対する乾燥材やJAS認定材の割合が著しく低いことがそれを示している。技術大国と言われている現代日本において、品質が保証されていない部材が市場に流通している事は他からは理解を得られないであろう。ここにきて、林業関係者が改革に対して真摯に取り組んでこなかった姿勢が問われている。この事が現在の木材自給率が低い現状の根本的原因であるとも考えられる。
国産材の集成材化については、国産材活用の必然性を理解していた一部の大手供給者がすでに取り組み済みではある。しかし、効率的生産を行うには大型工場等の設備投資が必要で、一般の林業関係者が参画するには、規模や資金面で困難を伴うことになる。この集成材化は、国産材活用の合板生産とまったく同様の周辺事情を持っている。これらの措置を行って国産材活用を普及促進することは、木材自給率を押し上げるためには効果のある手段であるが、「森林・林業再生」の本来目的の観点からは疑問が残る。国内の木材供給者の中には、合板用資材や集成用ラミナ製材としての需要に期待する声も聞かれるが、実際に九州地域で見られる現状を報告する。
当地域では近年、超大型の集成材工場やラミナ製材工場等が建設され稼動している。又、国産材活用の合板メーカーも存在している。これらの製品の製造上の特徴に、原木丸太のやや難あり材(B材)を効果的に活用できる点がある。又、加工過程にコストが掛かるため、安価なB材を活用することが必然ともいえる。ただし、このB材のみの需要が拡大したことで、良材(A材)価格が影響を受けて値崩れをおこし、最終的に山元の収入が減少してしまうことになった。この結果、山元は原木の出荷(供給)を抑える事となり、市場での慢性的な原木不足や、集成材工場においての資材調達の不安定化を招くことになった。
「森林・林業再生」のために木材自給率を高めた上でエコロジーな循環型社会を形成するには、先に述べた国産材の信頼獲得の為の2つの手法について、双方バランスをとりながら向上させることが必要となる。そのためには、無垢構造材の品質保証提供への対応が喫緊の課題である。
前出の2件のニュースのように、木造化・木質化の流れにおいても、国産材が構造材として活用されていない現実は残念に思うが、筆者に、それ自体を問題視する意図はない。十分な品質を確保した建物を提供する責任を負っている設計・建設関連の木材需要者が、その責任に基づいて判断、選択した結果であると理解する。むしろ問題は、木材供給者が、需要者からの信頼を獲得可能な製品を提供出来ていない事にある。すべての木材供給者は、この現状を改善すべく、早急に、それぞれの立場での取り組みに尽力する必要がある。
木材需要者(設計者、建設業者、事業主等)は、責任ある建物提供をする立場を保持しつつ、国産材の活用の必要性を理解した上で、構造用木材に求める品質を国産木材に対して要求する姿勢を持って頂きたい。その上で、樹種や形状の適材適所への配置等の工夫を行うなどして、国産材の活用可能な場面を創る努力を切望する。
国産木材の供給者と需要者の間に、共通の認識及び目標を持てなかった事が、これまでの好ましからざる状況(木材自給率の低レベル等)をもたらせた大きな要因であったと考える。提供する為の努力と使用する努力が良好な相関関係を構築できた時に真の成果を獲得できるものと信じる。
国や行政が、「森林・林業再生プラン」にて方向性を示し、数々の具体的政策を打ち出したことは、数少ない政権交代の成果のひとつといえる。又、それらが一定の成果を得ている事も事実である。その上で、今後はその政策において合理的・効果的な内容を検討する事を期待する。「木の家整備事業」が、中小建設業者に長期優良住宅と国産材活用への取り組みを促すことの成果を得たことは大いに評価できが、国産材の活用を厳格に定めた事に加えて、その品質に対しての条件付けがされなかった事が残念である。この事業の対象案件において、未乾燥の杉無垢桁材が使用されているのを見た時に、長期優良住宅の目的や国産材活用の促進の意義との齟齬を感じた。
SSDプロジェクトは、これまでSSDランバー供給事業を通じて、住宅分野を中心に進めてきた「品質表示の国産無垢構造材の提供」及び「全ての木造建築に構造計算の実施を促す啓蒙活動」の取り組みを、今後も鋭意継続させると共に、本年は、SSDランバーのJAS認定取得を目指した活動を行う事と、非住宅分野での採用を視野に入れた技術やシステムの開発に努力する所存である。又、企画型住宅商品のSSDコンセプトハウスの発表を通じて、品質表示国産無垢構造材の活用法を提案掲示すると共に、実際案件の提供も開始する予定である。
当会の活動が、ユーザーに対して安全且つ付加価値及び資産価値のある建物を提供する事とあわせて、エコロジーな循環型社会の形成に微力ながらも貢献出来る事を目指して努力する事を年頭に決意する。
SSDP事務局 渡邊豪巳
参考資料 木材自給率の推移 (H22年 森林林業白書から抜粋)PDF
参考資料 国産人工乾燥材割合(H22年 森林林業白書から抜粋)PDF