下の表は、林野庁が公表している木材需要の推移に、当方で注釈を加えた物である。景気動向と合致している上に、経済的事象・要因に敏感に反応している事が判る。
駆け込み需要は期待出来るか?
住宅産業会の総意として、消費増税は歓迎される物ではないが、反面、目先の駆け込み需要への期待感はある。上の表を見て、前回の増税時の前の数年間に需要実績が増加している事が確認出来る。この時期に、ある照明器具メーカーでは、社史最高の売り上げ実績を記録したと聞かされた事が有る。ただし、増税後の落ち込みも激しく大規模なリストラが必要であった様だ。「増税を挟んで天国と地獄を体験した」とは、この事を教えてくれた中堅営業社員の言葉である。これがいわゆる駆け込み需要である。
今回は、前回の増税時から比べて、市場が2/3に縮小している状況下で実施される。前回の様な特需を望む事が出来ない事は明白である。実際の市場においても、極最近の大手ハウスメーカーを中心とした好調な状況を聞かされるが、これには、復興需要が加算されている。明確な駆け込み需要は未だ確認出来ない。
今回の消費増税には不明確な点が多い。法案は決定した物の2014年からの実施については、経済状況が好転している事を条件としており、その判断は今年の10月に下される。現政権は、増税実施と7月の参院選に向けて、あらゆる景気対策を行う事が予想されるが、世界経済の不透明感、特に、最大の輸出先である中国との緊張感に基づく輸出の減少等を抱えた上に、安倍政権では関係改善も望めない中で、経済状況好転の困難な状況が伺える。増税時期の先送りの可能性が、幾許かでも残されている。
この間の政権交代により、消費増税に対応する住宅取得の優遇策も未定である。昨年暮れ(12月27日)に自民党住宅土地調査会の会合が開かれ、給付による負担軽減を検討している様だが、詳細確定にはしばらくの時間が必要である。
これらの現状において、深慮する消費者の多くは様子を伺う状況に有る。今現在、駆け込み取得を志向する消費者の多くは、深く考えない・流されやすい層の人達が、群集心理に惑わされて購入に至るものと想像する。群集心理故、増税時期が近づけば拡大する可能性は有る。
国産木材の普及に携わる身として残念な事は、駆け込み需要の主役となる層の人達の多くが、一次取得者を始めとるローコスト志向で、パワービルダー等のターゲット層である事だ。前出のハウスメーカーを含め、これらの住宅供給者には、国産木材の需要は望めない。しかしながら、駆け込み需要は期待出来なくとも、増税実施後の景気落ち込みの影響は必ずある。
国産木材を取り扱う地域密着型の工務店が、消費増税の駆け込み需要を取り込むには、様子見を決め込んでいる住宅取得(建替え含)の可能な層にターゲットを絞り「今が建て時」である事を訴求して、積極的に需要を掘り起こす必要が有る。現在の住宅ローン金利は最低基準であり、景気が浮揚すれば上昇する。住宅ローン減税も今なら10年で300万円まで使用出来るが、将来は財源等の問題で不透明である。
加えて、今年の国産木材活用には、普及促進の支援制度も有る。「国産木材版エコポイント制度」の開始が確実視されており、「地域型住宅ブランド化事業」も継続される。「ゼロエネ住宅+国産木材活用」での新たな支援制度も検討されている。
これらを用いたフィナンシャルプラン等を作成し、優位性を訴求する提案能力が求められるが、果たして、どれほどの地域密着型の工務店が対応可能なのか? スマートハウス等で大手メーカーに対して劣勢に立たされている工務店が、更に、真価を問われる事態である。
国産木材供給者に至っては、各種支援制度に対応する部材、すなわち、ユーザーニーズ・社会的ニーズに即した部材を供給し、工務店等の需要者に効用を提供する必要が有る。明確なトレーサビリティーの証明と木材乾燥等の品質確保は必須と成る。それらに対応出来ない供給組織の部材が需要者から採用される事は無いと断言する。
加えて、前出の大手ハウスメーカーやパワービルダーから、国産木材が支持されていない現実を深く考察し、改善しなくては成らない。消費増税以後の更なる厳しい状況下で、需要者からの信頼を獲得出来なければ「森林・林業再生」は不可能であると肝に銘じる必要が有る。
次回は、消費増税以後の住宅及び国産木材産業のビジネスモデルについて考察する。
文責者 SSDP事務局 渡邊豪巳
「2011年度戸建注文住宅の顧客実態調査」を公表/住宅生産団体連合会
注文住宅では長期優良住宅の割合が6割とかなり高い。
住団連が公表した調査は、主要都市圏における戸建注文住宅の建築主について、住宅メーカーの担当者3539件からの回答を基に顧客実態を分析したもの。平均顧客像は、平均年齢41.2歳、平均世帯人数3.54人、平均延べ床面積131㎡といった比較的広めの一戸建てを建築したファミリー層だ。住まいの建て替えをしたのは30.7%で、約半数(47.8%)は土地を購入して一戸建てを新築している。建て替えの建築費は3384万円、土地購入+新築では建築費が2900万円、土地代との合計は4848万円だ。
調査結果によると、「長期優良住宅」の割合が61.6%とかなり高いことが分かった。長期優良住宅とは、法律に基づく、長期にわたり使用可能な質の高い住宅のことで、耐震性や劣化対策、可変性など建物が長期使用できる性能を備えているだけでなく、面積や居住環境への配慮や計画的にメンテナンスを行い、点検や補修の履歴を作成することなども求められている。 長期優良住宅と認定されるには、長期使用に耐えうる性能にするために建築費がアップする。しかし、認定されると、一般の住宅より「住宅ローン減税」や「登録免許税」「不動産取得税」「固定資産税」で優遇されるほか、一定期間金利が引き下げられる「フラット35S」のローンでも、引き下げ期間が長くなるなどの特典が用意されている。(ただし、優遇拡大にはいずれも期限がある)。
住宅減税の利用割合は83%。利用した減税措置は?
マイホーム取得についてはさまざまな住宅減税が用意されているが、調査結果によると、住宅減税を利用した割合は83.0%と高い。その内訳は「住宅ローン減税(一般住宅)」が 34.8%、「住宅ローン減税(長期優良住宅)」が 59.5%、「投資減税型特別控除」が5.1%となっている。
利用されている住宅減税について説明していこう。「住宅ローン減税」は、住宅ローンを組んで住宅を建築、購入した場合などに受けられる減税措置で、住宅ローン残高に応じた一定額が最長10年間所得税(一部住民税)から差し引ける。一般住宅と長期優良住宅では、控除率とローン残高の上限に違いがあり、一般住宅では控除率は1%、ローン残高の上限は2011年入居で4000万円、2012年入居で3000万円、2013年入居で2000万円と段階的に縮小する。長期優良住宅では控除率が2011年入居では1.2%だが、2012~2013年入居では1%となり、ローン残高の上限は2011年入居で5000万円、2012年入居で4000万円、2013年入居で3000万円と段階的に縮小する。(ただし、2013年のローン残高上限額を拡大する税制要望が国土交通省から出ている。詳しくは「国土交通省が税制改正要望。来年度のマイホームに関する税制はどうなる?」参照) 一方、「投資減税型特別控除」は、住宅ローンを組まずに住宅を建築、購入した場合にも受けられる減額措置。新築の場合は、長期優良住宅の認定基準に適合するために必要となる性能強化費用(2011年分は上限1000万円、2012~2013年分は上限500万円)の10%が所得税額から差し引ける。
調査結果によると具体的な減税額(※)は、最大で、平均269.6万円。住宅減税別に見ると、「住宅ローン減税(一般住宅)」が239.9万円、「住宅ローン減税(長期優良住宅)」が 300.7万円、「投資減税型特別控除」が45.2万円。住宅ローン減税については、「200~300万円未満」の割合が最も高くなっている。ちなみに、住宅ローンを組んだ人の借入額の平均は3256万円だった。 また、住宅減税の効果について聞いたところ、「住宅ローンの返済に充当」(37.5%)の割合が最も高く、「設備等のグレードアップ」(13.9%)、「希望設備の追加」(9.2%)などとなっている。 (※)住団連のシミュレーションソフト等を用いて、減税対象期間の減税額を試算したもの
出典「2011年度戸建注文住宅の顧客実態調査」報告より抜粋
住宅資金の贈与額は平均1185万円。どんな制度を使った?
親などから住宅取得資金の贈与を受けた割合は18.7%、5人に1人が贈与を受けた勘定だ。なかでも20代、30代の若い世帯で贈与の割合が高く、3人に1人が贈与を受けている。贈与がある場合の贈与額の平均は全体で1185 万円とかなり高額で、持ち家取得に大きな支援となっている。ちなみに、贈与なしも含む自己資金の平均額は1468万円となっている。
ところで、親からの住宅取得資金の贈与を非課税にする制度として、「住宅取得資金贈与非課税特例」と「相続時精算課税制度」がある。「住宅取得資金贈与非課税特例」は、親や祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合、贈与を受けた年によって一定額が非課税となる。2011年の贈与なら1000万円まで非課税だったが、2012年の贈与からは、一般住宅の場合で、2012年は1000万円、2013年は700万円、2014年は500万円が非課税枠、一定の省エネ住宅・耐震住宅の場合で、2012年は1500万円、2013年は1200万円、2014年は1000万円が非課税枠になる。贈与税の基礎控除110万円と併用できる。 一方「相続時精算課税制度」は、65歳以上の親から贈与を受けた場合、2500万円までは贈与税がかからず、相続時に相続財産として精算する制度。住宅取得資金の贈与であれば、2014年までの贈与なら、親の年齢は問われない。先の「住宅取得資金贈与非課税特例」との併用も可能なので、2011年は3500万円まで贈与税がかからなかった。
どの制度を利用したかについて調査結果を見ると、「住宅取得資金贈与非課税特例」が 75.4%で最も割合が高く、「相続時精算課税制度」8.5%、「特例適用なし」6.3%、「両方の制度併用」4.7%の順となっている。贈与に関する非課税制度の効果については、「住宅取得が可能になった」が 56.6%で最も高く、「ローンの返済が楽になった」(38.1%)、「購入時期が早まった」(26.4%)と続いている。
利用できる制度は活用したいが、適用条件に合うためにプラスとなるコストもエコポイント・補助金の適用対象をみると「住宅エコポイント」が 72.3%で最も高く、以下「太陽光発電」(42.4%)、「高効率給湯器」(17.3%)、「エネファーム」(7.4%)、「その他」(1.7%)の順となっている。住宅エコポイントは既に予約申し込みを終了しているが、省エネ設備機器の設置については、国や自治体の補助金制度などがあるので、調べてみるとよいだろう。
住宅の新築、購入には相当の金額が必要となるので、利用できる優遇制度は漏れなく利用したいところだ。ただし、適用条件がそれぞれ異なるため、どういった条件であれば利用できるのか、適用条件を満たすためにどの程度コストアップするのかなどをきちんと把握しておきたい。すべてを自分で調べるのには限界があるため、設計施工する住宅メーカーなどから、適切な段階で正しい情報を入手することが大切だ。どこに依頼するかという選択が、優遇制度を賢く活用できる鍵にもなるだろう。
これまで、建築、とりわけ住宅に携わって来た中で、国産木材の普及の必要性を感じ、その為の唯一効果的な措置は、品質の確保とその補償提供に有ると確信してから、早7年が経過した。
その間、木材乾燥技術の新規開発から始まり、グレーディング材(以下GR材)の安定供給の体制構築に費やし、3年前から実際の供給を開始して今日に至る。この間のGR材供給実績として約100棟を超える迄に至った。
当初は、九州宮崎県で取り組みを開始したが、宮崎産杉(飫肥杉)の品質確保の問題や、桧材が乏しい等の理由から、現在の熊本県上球磨地域に拠点を移した。この間の成果としては、素材生産から建築現場迄の一気通貫の供給体制を構築出来た事にある。生産に関わる夫々の担当社の責任を明確にしたトレーサビリティの確立に伴う品質の確保と、市場を排した流通改革と運送企業の参加等により、現実的価格でのGR材提供が可能になった。ちなみに価格は、GR材でありながら、一般KD材(人工乾燥材)と同等価格で提供し、杉正角(柱等)に至っては、欧州材(ホワイトウッド集成材)と遜色ない価格での提供を実現した。
上記のGR材を供給する中で、杉平角材(梁桁材)の強度性能の安定的確保と、強度劣化を防ぐ目的の中温域(90°平均程度)での熱処理に伴う干割れの発生の2点の克服が課題として存在していた。前者はGR結果に基づいて選別する事、後者は干割れが強度性能に影響を与えない事が実証されている事等を根拠に出荷していたが、商品価値として負の要素であると自覚していた。
この2点の課題克服の為の見立てが「芯去り製材」である。部材の構成における辺材部分(針葉樹の高強度部分)の割合を増やす事で、より安定した強度性能を確保する事と、製材時に繊維(年輪)を切断する事で、乾燥収縮時の破断を防ぐ事を期待しての取り組みである。
芯去り製材の問題点は、木材の成長応力により発生する反り曲がりに対しての対応措置である。この現象は、製材と同時に発生する事もあり、これ迄、構造材において「芯持ち製材」が主流であった理由の一つである。
様々な試行錯誤の末、効果に対して確信の持てた措置が、製材前の丸太時点で熱処理を行う事であった。熱処理が木材の生長応力を緩和する事は既に実証済みで、木材物理学の常識となっている。しかしながら、木材に関する知識を有している人にとっては、杉、それも平角材を芯去り製材する為の大径丸太(400㎜以上)の熱処理を実現する事について、俄には信じられない人が大半であると想像する。この丸太時点で材芯まで確実に熱処理する事を可能にした事が、今回の新規開発製材製品(芯去り構造用製材:杉・桧GR材)実現の最大貢献である。
木材の効果を伴う熱処理には、材芯温度80°以上、処理時間48時間以上が必要とされている。しかし、材芯温度を確保する為に庫内温度を100°以上に上げる事は、木材の細胞を破壊し、強度劣化を誘発する。ちなみに、現在の一般的な木材乾燥法(高温式蒸気乾燥法)は、乾燥精度を確保する為に120°~130°で運用する為に、強度劣化を伴っていると推測する。この事が、国産木材のGR供給が全くと言って良い程、流通していない原因であると考える。
当方では庫内の平均温度を90°程度で運用している、しかも、蒸気乾燥法に比べて短時間で熱処理効果を確保している。その要因を下に記す。
この他にも、細かい要因はあるものの、概要としては上記の措置で効果を確保する事が出来た。当該設備での丸太熱処理における性能評価試験において、その効果は確認済みである。
下記は、その性能評価試験時の写真及び温度変化等の獲得データであるが、現在は、このデータを基に、運転スケジュール等を改正して運用している。
燻煙ガスを熱媒体に使用する為に、木屑を燃焼させるが、この時の熱を活用する事で、化石燃料の使用を大幅に減らす事が出来た。一般KD材の場合の1/3~1/4程度に抑えられている。
順序が逆になったが、次に、当該開発内容における、木材乾燥手法及び製造工程に着いて解説する。従来の木材乾燥の概念とは全く異なる方法である。当方の乾燥は、強度性能劣化を防ぎ、環境配慮とコスト軽減、安定的品質確保を目的に、熱処理と天日乾燥を併用した「複合乾燥法」を採用している。
この度の新規開発商品に関してはJAS認証材としての供給を予定している。現在は認証取得の為の作業及び手続きの最中である。来年の春頃を目処に供給を開始したいと考えている。
これまでの3回にわたる「森林・林業白書」のデーター読み解きにおいて、それらをまとめる事で林業と木材産業の現状を検証します。その上で、林野庁有識者会合が「日本の林業非常事態宣言」を発しなければならない程の現状にある林業の再生を図る上で、今後の課題を検討し、今、やるべき事を考察します。特に国産木材の供給に関わる木材産業界が行うべき事を検証し、SSDプロジェクトのこれまでの実績と今後の活動方針を合わせて考察します。
平成22年以降の森林・林業・木材産業に関する動向について
平成22年 | 政府は成長戦略の一環として10年後「木材自給率50%」の数値目標を設定。 |
平成23年 | 「森林・林業再生プラン」の方針策定 |
平成24年 | 木材価格暴落。再生プランの切り捨て間伐補助対象除外に依る過剰供給が原因と目されるが、合板・集成材需要への安定供給目的の国有林システム販売の良材需要含む急激な供給拡大も需給ギャップ発生の要因と思われる。 |
平成24年 | 再生可能エネルギー固定価格買い取り制度導入。間伐材等未利用木材由来のバイオマス燃料としてのチップ需要拡大が予想される。 |
森林・林業及び木材産業の現状を考察
極近年、国産木材需給実績の拡大傾向と自給率の改善がアナウンスされているが、それらは合板・集成材等の新規需要開拓に依るもの。これらが、B材価格を基準にしている事や、国有林システム販売の対象である事等から、林家収入の加算にならないばかりか、良材価格にまで影響を与え、収入を圧迫するまでに至っている。林業所得獲得に反映貢献する製材需要は、国産木材需給実績最低を記録した平成14年から更に減少している。この林業所得においては、平成19年から20年の一年間で半分以下に減少する異常な状況にある。
この状況の中で平成24年には、「森林・林業再生プラン」の開始に伴う混乱で、木材価格が暴落し、林業所得が更に減少している事態が予想される。この異常に低い所得では、林家の事業意欲を喪失させる懸念が有り、林業再生プランの根源的目的と齟齬する結果になる事を危惧する。「森林・林業再生プラン」の理念を実現する為に、早期の制度運用の改善が望まれる。
今回の「森林・林業白書」には未だ記載が無いが、国土交通省の地域材(国産材)活用普及促進の制度や、今後の創設が予想される国産材エコポイント等が適切に運用され、林業再生に貢献する事を望む。
森林・林業の再生の基本となる「林業所得」の改善を考察する。
昨年、国は「森林・林業再生プラン」を発表し、2011年を林業再生元年と位置づけた。本当の意味での「林業再生」を目指すのであれば、林業所得の改善が喫緊の課題であると思われる。森林所有者が、森林組合等に事業委託するにしても、事業意欲を失いかねない状況は、林業再生の根幹部分で躓く事になりかねない。
国産材需要が拡大傾向に有るものの、林業所得が減少している要因は、国産合板・集成材需要等の新規需要が著しく拡大している反面、従来の製材(用材)需要が減少している事に伴う、需要の不均衡バランスに依るものと考えられる。昨年迄の価格例として、スギの製材用丸太が¥11.000の場合には、合板・集成材用丸太(B材単価)は¥7〜8.000で取引されるが、これらB材需要のみの拡大に、A材価格が影響を受けている事や、材そのものが流れている事が想像される。加えて、今年の7月に開始された再生可能エネルギー固定価格買い取り制度に伴い、バイオマス燃料として、チップ材(C材)需要の拡大も予想されるが、これら無秩序な需要の不均衡状態の拡大においては、更に「林業所得」を圧迫する事が懸念される。
この状況を改善する手立てとして、合板・集成材等B材需要に対しては、国有林システム販売制度(合板・集成材への安定供給目的)の本来目的に徹した制度運用や、これ迄、切り捨て間伐で放置されていた間伐材のバイオマス活用への特化等の措置を持って、従来の製材(用材)需要の価格を安定させた上で、この需要を拡大させる必要がある。これらの措置を行う事により、国交省「地域型住宅ブランド化事業」や今後創設が期待されている「国産材エコポイント」等の効果が期待できる状況が生まれる。過渡期の混乱状態においては、農家の個別所得保証の林家向け制度が有ってもいいのかも知れない。この制度には、森林の不在地主に依る放置森林の改善につながる効果も期待できる。
均衡のとれた需要拡大の為に、ニーズ対応の製材商品開発が必要
これをお読みの方々は、既にお気づきと思うが、林業再生の為の「林業所得」改善には、従来の製材需要を軸としたバランス構造の需要を保つ事が望ましい。その為には、減少傾向にある製材需要を増加させる必要が有る。
現在、製材需要に取って代わる勢いで増加している集成材は、その特徴として、均一な品質性能を備えた上に、それを明確に表示している事にある。建物に耐震性能初め性能確保とその明確な根拠を求められている今日、それら社会的ニーズに適合した、集成材を始めとするエンジニアードウッド(EW)が支持を得る事は当然であり、今後、その傾向は更に拡大していくと予測される。
対して、製材(無垢)、特に構造用材は、品質確保及び表示の面での取り組みが不足している。森林・林業白書では、国産製材品の出荷に占める人工乾燥材の割合が、増加傾向に有るものの、未だ3割程度にしか無い事が確認できる。しかも、この人工乾燥材には、集成材用ラミナ製材が含まれている事を考慮すれば、国産製材品の乾燥材は、増加しているとは言いがたい状況である。
この事は、建物性能確保を重要視する需要者のニーズに対して、全く対応出来ていないと言っても過言ではない。この間に、極一部の大手製材メーカーは国産集成材への対応の体制を整えており、白書からも確認できる「集成材増加、製材減少」の事象は、木材産業界の努力不足から派生した当然の結果である。又、この努力不足が、これまで国産製材品が外材に取って代わられて、売れなくなった要因のひとつであり、売れない事により、業界全体がいじけて、さらに努力不足状態が進行する悪循環に陥っていた。
この結果を招いた原因は、国産製材品の木材乾燥が難しかった事や、外材集成材に比べて相対的に強度が劣る点(特にスギ材)等、品質確保に困難が伴った事であると考える。ただし、近年では複合乾燥法の確立等により、乾燥技術は改善が進んでいるが、一度いじけてしまった業界では新たな取り組み意欲が感じられない。強度性能に関して、スギは集成材に比べて相対的に劣るものの、構造用製材として使えない訳ではない。ただし、中にはそれ以下の品質材も存在する事は事実である。肝心な事は、部材自体の実質強度が判っていれば、不合品は選別除去した上で、実質強度に適合した使用法を採用すれば良いだけの事である。不合品の存在が有りながら、それを確認せずに使用するリスクが、国産材製材品の信頼を損なう原因の一であったと考えている。国産材活用の福音として期待された国産集成材化も、多額な投資が必要で、極一部の大手製材メーカー等しか取り組めていない現状と、原材料がB材価格をベースとしている為に、林業所得減少の要因となってしまっている。
これらの悪循環状況を改善する為には、国産製材品に品質の確保とその表示提供(グレーディング供給)を行い、社会からのニーズに呼応した製品とした上で、信頼回復を果たすと共に需要拡大を図る必要が有る。
その為には、木材乾燥技術の確立が急がれる。現在主流の高温式蒸気乾燥では強度の劣化と大型製材品の乾燥精度不足が懸案である。天日乾燥と併用した複合乾燥法に解が存在していると思われる。
グレーディング供給と構造計算の併用措置は製材需要拡大の絶好機
製材品をグレーディング提供する事で、その需要を拡大する為には、需要者においても一定の理解を得る必要が有る。確認された部材強度を適材適所に配置し、特段の付加のかかる箇所には集成材を配置する事で、国産製材品の需要は、現在からは飛躍的に拡大する筈である。この集成&無垢材の併用採用は、必要な建物性能を確保するとともに、全て集成材を使用した場合よりも省コストが図れると推測される。構造計画時に多少の手間がかかるものの、全体として、需要者にとっても利する手法と考える。
この一連の作業を効率的に進める事に貢献するのが構造計算である。現在、2階以下で500㎡以下の規模の木造案件には構造計算が免除される特例があるが、この特例は、廃止される事が決定していて、その開始時期が延期されている状況にある。つまりは、近い将来に、木造建築であっても全ての案件に構造計算が必要になる。この構造計算は、各部材の必要強度と寸法を導きだす機能を持つが、強度未確認材はこの計算に適さない部材であると言える。逆にグレーディングで品質を確認されていれば、国産製材品の強度の強弱材及び集成材を併用して建物品質確保が可能になり、この構造計算必須の動きは、国産製材の需要拡大の好機とする事が出来る。
何れにしても、国産製材の需要の拡大を図るには、品質確認とその品質を保証した提供を行う事で、社会的ニーズに適合した製品とする事が肝要である。
これまで実績の無い国産製材品のグレーディング供給は可能か?
当方(SSDプロジェクト)では、このグレーディング供給を目的に、木材乾燥の技術開発に着手して足掛け7年になる。この間、グレーディング材の試験的提供で施行された建物は約100棟の実績を持つまでに至った。木材乾燥の技術開発に重点を置いて進めた成果として、高い歩留まり率を確保できて、一般乾燥材(KD材)と遜色の無い価格での提供が可能となった。このグレーディング材の正式な商品化の時期が来たとの判断から、近い将来に、木材産地(熊本県上球磨地域)を称して「SSD球磨杉&SSD球磨桧」との名称で供給を行う予定である。現在は、JAS機会等級選別の認証獲得に向けた作業を行っている。
また、今回開発した木材乾燥技術の特徴を生かして、今後、懸案事項となるであろう、森林の高林齢化に伴って大径化した木材の有効利用製材品の商品開発にも着手する所存である。
これら、SSDプロジェクトの取り組みが、国産木材に関わる木材産業界に、僅かながらでも、影響を及ぼして、林野庁有識者会合の「日本の森林非常事態宣言」が発せられる状況の林業に、改善の為の貢献が出来ることを望んでいる。
執筆及び文責者 SSDP事務局 渡邊豪巳
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前回は、今年度公表の白書における国産材需給実績や木材自給率の向上傾向が、合板需要と言う新規需要の拡大にあった事を確認しました。又、この事が、前々回に述べた林業所得の減少の要因である事も併せて確認しました。では、以前からの国内の木材需要を支えていた製材品需要と、とりわけ国産製材品の現状はどうなっているのか? データからその事を読み解きます。
下記の表は、前回既出の製材品動向と国産材比率が確認可能なデータ。改めて内容検討
H22年度の国産材実績は1.058万㎥で、木材全体の自給率が最低であったH12年(1.280)や、同じく国産木材全体の需給実績が最低であったH14年(1.114)よりも更に下回る供給実績となっている。長引くデフレ下で木材需要全体が下降している中、健闘しているとも取れなくはない。しかしながら、この国産製材需要においても、林業所得が激減した(H14年:21.3万円→H20年:10万円)一因とも考えられる変化が起きている。この変化は、今後、合板需要の拡大と共に、森林所有者を経済的に苦しめる事になりかねないと考える。
左の表がその変化を示すもので、国産集成材の供給量推移が確認出来る。この集成材の原材料となるのは、ラミナ製材と呼ばれる製材品である。ここで示されている数字は製品材積であろうから、素材に換算するとH22年度は約70万㎥であったと推測される。この集成材需要の拡大が、デフレ下における国産製材品需給実績の維持に寄与している事は確かである。反面、従来の製材需要はH22年度において、1万㎥を割り込んだ現実が見えてくる。未だ国産製材品における割合は少ないものの(約7%)、この集成材割合は、今後も、増加する事が予想される。ちなみに、欧州から輸入される住宅用構造部材は、大半が集成材である。
この集成材は、品質が均一に確保され、しかも、それが明確に表示・保証されている(JAS認証材)。木構造の殆どがプレカット加工される現在において、その大半が集成材である事が、欧州材(ホワイトウッド・レッドウッド等)が木造住宅に重用されている事の、価格以外の主たる理由の一である。国産集成材においても、社会からのニーズが、建物の耐震性能・耐久性能等の明確な確保にある事等を理由に、今後とも拡大傾向が継続するものと思われる。ちなみに、国産集成材は欧州集成材と比較して、価格はやや高くなるが、耐久性能に優れている。強度については、欧州集成材が優れるものの、国産杉材と米マツを混合して集成にするなど、同等の強度を持つ製品が開発されている。
この国産集成材の開発は、大所高所から見れば、木材産業の観点に立って、意義のある内容では有る。しかしながら、林業の観点からは、その丸太価格が、合板用丸太と同じ理由によりB材価格をベースにしているために、合板同様に需要が拡大すれば、林業所得を更に圧迫する要因になりかねない。
本来、合板需要にしても、集成材用ラミナ製材にしても、B(曲がり等難あり材)材対応が可能なことは、木材の高効率活用に繋がるものと期待されていた技術である。これらB材価格製品が、国産木材需要の主たる位置を占める需要構造になる事は、時代の趨勢としては、いたしかたない面はあるが、当然、A材がこの需要に対して供給され、結果、林業所得を圧迫している。反面、木材産業界は加工等の仕事量の確保にはなる。林業所得を考慮して価格を上げる事は、市場が許す物で無い事は明らかである。
では、本来、森林所有者からして正当な価格提示が可能な、従来の製材需要が、これほどまでに落ち込んでいる事を検証してみる。ただし、現時点でのA材(良材)価格は、国内丸太価格急落により、B材価格に、限りなく近づいている現実があるが、この事は別の機会に検証する。
左の表は、国産製材品における人工乾燥材の割合とその実績実数が確認出来るデータである。集成材の増加傾向が、需要者からの木材に対して品質を求めているニーズであるとした事に対して、製材品の乾燥材割合が、未だ30%にすぎない現実が判る。しかも、この実績の中には、前述の集成材用ラミナ製材(全量人工乾燥必須)の増加が含まれている。過去10年間で、割合は増加しているものの、実績において、有意な増加傾向にあるとは言い難い。この国産無垢製材品の品質軽視とも取れる姿勢が、自らの(とりわけ構造用部材の)地位を貶めていると考えられる。未だに、木材乾燥割合がこの程度であるから、強度まで確認した品質保証材(JAS材orグレーディング材)の供給は「推して知るべし」の状況である。
これまで、国産材の木材乾燥技術の開発には困難が伴う(特に杉材)ものとされてきた。本来なら、この技術開発の可能性を持つと思われる大手製材メーカーの多くが、集成材を始めとするエンジニアリングウッドの分野に駒を進めてしまい、結果、残された中小零細製材所が、国産無垢製材品の製造の中核をなす構図が出来てしまっている。これら製材所には、技術開発を成し遂げる能力が不足している事が予想される。又、これら製材所の多くが、未だに乾燥設備すら持たない現実がある。これらの現実が、林業所得を激減させ、将来への林業の自立が危ぶまれる事態となっている。
今回はここまで
次回は、これまでの纏めと今後への課題を、我SSDプロジェクトの取り組みを交えて考察します。
執筆及び文責者 SSDP事務局 渡邊豪巳
上記に関する御意見、お問い合わせはこちらまで▷▷▷MAIL
前回(1回目)は、国産材供給実績が増加傾向にあるものの、木材(丸太)価格は下降しており、林業所得が異常に減少していて、林業の将来が不安視される状況を確認しました。今回は、木材価格下降の理由を、木材の需要内容の変化等から読み解いていきます。
はじめに理解しておくべき事として、「失われた10年」とも20年とも言われる長期デフレ下において、木材需要が下がり続けている事がある。デフレ突入の切欠は、バブルの崩壊であると、一般的には理解されているが、厳密にいえば、1997年4月からの消費税引き上げ(3%から5%)であった。下記の表にあるように、木材需要においてもその事が見て取れる。
左の表は前回も紹介した国産材の供給実績の推移を示すものである。平成14年の1.608万㎥を底に、リーマンショック時に一時的な下降はあったものの、トレンドは拡大傾向にある。平成22年には1.824万㎥となり216万㎥増加している。では何故、需要の拡大時に木材価格が下がっているのか?それを読み解くのが今回のテーマである。
木材需要の35%をしめる製材品のうちの国産材実績の推移を確認出来るグラフが下記の表である。国内の製材品生産が全体需要と共に減少する中、国産材の供給実績も、平成14年よりも減少している。
これまで、国産材需要の大半を占めていた製材品が、その需要の拡大期においても増えていない事(H22年:56万㎥減少)を確認して覚えておいて頂きたい。
製材品の次に木材需要に大きな割合を占めるチップ材(パルプ原料等)は、大半を輸入チップに頼っており、国産材需要は僅かな増減はあるものの、近年の生産量は一定の枠内で安定している。しかも、その約半数は、廃材や林地・工場等の残材である。(左表グラフ参照)
では何が国産材需給実績を押し上げているかと言えば、合板材用需用である。左図にあるように、平成14年度に僅か28万㎥であった供給実績が、平成22年度には249万㎥にまで拡大しており、その増加数量は221万㎥である。国産材需給実績全体における増加分を超える数字である。これまで、輸入に頼ってきた合板需要を、国産針葉樹合板と言う新規の需要を開拓して国産材に置き換えた結果の、需給実績の拡大であり、木材自給率の向上であると断言できる。その上で製材品需要は依然、最低水準を脱する事が出来ていない事が確認出来る。
林業と言う産業内において、新規需要を開拓して成果をもたらす事は、表面的には好ましい事であると言える。ただし、この合板需要の拡大には、林業所得を圧迫する負の効果が潜んでいる。
合板製造に使用される丸太はやや曲がり等の難あり材(以下B材と表記)であっても良とされていて、その結果、杉を例にとれば、7000~8000円程度のB材価格で取引されている。この杉7.000円代/㎥と言う価格は、素材(丸太)供給者にとっては採算分岐点以下の価格である。良材(以下A材)とB材のバランスが取れた需要であれば、全体として成立する事は可能であり、効率的な資源の有効活用とみなされるが、現在はそのバランスが崩れた形で、合板需要のみの拡大傾向が継続している。
これまで、良材の供給先とされてきた製材需要が、国産材の最低実績時(H14年:1114万㎥)を更に割り込んでいる(H22年:1058万㎥)現状の中、新たな供給先が、製材需給実績の25%もの規模を持ち、尚且つ、採算ベースに届かない価格である現実から、林業所得を大きく圧迫している現状を想像・理解して頂けるものと思う。
A材、B材に加え、今後、バイオ燃料等としての新たな需要が見込まれるチップ材(C材:4000~5000円代程度)の効率的バランスを構築した上での需要拡大が必要な事は明らかである。現状の崩れたバランスの上に、更にC材需要が増加する事は、国の方針の目標である「木材自給率50%」の達成は可能であるかも知れないが、その際には、日本の林業は崩壊し、豊かであった筈の木材資源が将来的に枯渇する事態を招いている危険性を孕んでいる。
喫緊の課題は、国産製材需要の拡大であることは、誰の目からも明白に読み取れる。次回は、この製材需要について「森林・林業白書」から読み解き、現状の把を考察する。
今回はここまで
次回は、需給拡大傾向における、木材価格低迷理由を統計から更に詳しく読み解き、今後の改善行動の考察の糧とすべく、考察を行います。
執筆及び文責者 SSDP事務局 渡邊豪巳
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はじめに、日本が豊富な森林資源を有している事と、その合理的活用がなされていない為に、人工林の高齢級化が進み、且つ、林家における所得が非常に厳しい状況にある事を把握しておく必要がある。
■森林資源量の拡大傾向と高齢級化、林業所得の実態
かつて日本では、戦時中の物資や戦後の復興及び高度経済成長期における資材として、大量の木材が使用され、それを賄う目的で大規模な植林が施工されてきた。その人工林は国土の66%(2510万hr)を占める森林面積のうちの約4割(1035万hr)の規模がある。
その人工林の大半が、伐採時期の50年を経過しつつあるに関わらず、その活用が進まずに、木材の高齢級化に伴う大径化で、その蓄積量は増加傾向にある。
この人工林における高齢級林の割合は、現在では35%程度であるが、現状で推移すれば、10年後には60%を超える事が見込まれる。(下表)この事は、将来へ循環型の森林資源を引き継ぐ観点から、大きな問題を抱えている。現在においては豊富な資源量を有しているものの、若齢林が非常に少ない事は、将来の資源量が現在と比較して、大きく減少する事を示している。又、高齢級化に伴う大径木化は、現状においては、木材の有効活用に関しての阻害要因となりかねない。(後に詳細記述)
日本の豊富な森林資源(現時点において)が有効活用されていないために、人工林の高齢級化が進んでいる事を理解して頂けたと思う。それに加えて、左表のように、林業所得が、平均的な林家において、平成20年は、わずか10万円にしかならなかった危機的状況がある。林業が産業としての体を成して居らす、持続が望めない事実を示している。
最近は、国産材供給並びに木材自給率は増加傾向にあるとされているが、林業所得は減少している。国産木材の供給実績が底を打った平成14年でさえ、林業所得は21.3万円であった(14年度白書より引用)。国産材活用住宅を推奨する立場にある当方が、林業が厳しい状況にある事の原因を検証した上で、住宅を始めとする建築における国産木材の合理的有効活用方法を考察する必然があると考える。
■木材供給と自給率
最近の国産材の供給量及び木材自給率は増加傾向にある、国産材供給量が底を打った平成14年と比較して、供給量が1824万㎥と1.13倍、自給率が26%と1.41倍に拡大している。自給率が大きく伸びているのは、木材輸入が相当数減少している事を示しているが、白書では輸入減少の理由を、国内の木材需要の減少と輸出国の資源的制約(ロシアの丸太輸出関税引き上げ等)や世界的金融危機等としている。木材需要の低迷は双方に同条件となり、この状況下で国産材供給が増えている事は、国内保有の資源の活用の必然と、それを根拠とする林野庁や国交省の政策の成果が表れているものと推測される。
木材輸入を考える時に、木材輸出国の資源外交の思惑やEU危機、中国をはじめとする拡大途上の国の需要動向等、幾多の不安定要素を含んでいる事と、世界規模で環境問題に取り組むべき時期にある事を認識しておかなければならない。国はこれらの事項を考慮した上で、持続可能な循環型社会の形成を目的に、10年後を目途に木材自給率50%とした目標を設定している。今後も、国産材の供給量並びに自給率の拡大傾向は、緩やかながらも継続するものと考えられる。
ここで問題視すべき事項は、拡大傾向にありながらも、林業所得が減少している事である。左表によれば、国産材丸太価格は平成14年から23年にかけて、ヒノキ35%、スギ18%も下落している。これまでの木材価格は相場制を基本とし、需要低迷を理由に価格を下げてきたが、需要が拡大しつつも値下がりしている事は、もはや制度自体が崩壊していると判断せざるを得ない。木材価格が上がる事は、需要確保の観点からは好ましくはないが、現在の林業所得は異常な状態にある。
需給バランスを反映しない木材価格の下落理由は、ここ久しく継続しているデフレ状況下において、建設コスト圧縮の必然性からの需要者の要請が、結果的に価格を決定しているものと推測する。木材価格の決定プロセスが変更されているにも関わらず、国産木材の供給に関わる関係者が、旧態然とした流通システムをもって対応している事や、需要者のニーズを理解できていない事等が、林業所得の異常な状況を生み出しているものと、筆者は確信している。加えて、事態の改善が無ければ、林業の持続性は望めずに、木材自給率50%の目標達成はおろか、日本の資源や環境等において、重篤な問題を表面化させる危惧がある事を指摘する。
今回はここまで
次回は、需給拡大傾向における、木材価格低迷理由を統計から更に詳しく読み解き、今後の改善行動の考察の糧とすべく、考察を行います。
執筆及び文責者 SSDP事務局 渡邊豪巳
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MSJグループ代表の鵜澤泰功氏が立ち上げた住宅シンクタンク「住宅アカデメイア」が発行する「未来通信」に掲載された鵜澤氏執筆の特集記事「産業論で解く住宅の明日」の内容を抜粋してお届けします。
1 スマートハウスの本質
スマートハウス推進の意味
「スマートハウスに非ざれば住宅に非ず」。最近の住宅メーカーや住設メーカーの広告表現を見ていると、このようにでも言いたいと思えるほど、スマートハウス一色である。
スマートハウスは大手設備メーカーやハウスメーカー、EV(電気自動車)を推進している自動車メーカーには極めて好都合な技術的、マーケティング的な切り口と言える。
スマートハウスによって、住宅は大資本型装置産業(まるで自動車産業やロボット産業の様な産業構造)となり、大手連合による寡占化市場を生み出すことが可能であるとの考え方だ。
事実、スマートハウスの推進を共通テーマとして、積水ハウスと日産自動車、住生活グループとシャープ、積水化学とNEC、ヤマダ電機とエス・バイ・エル・・・と数えればきりがないほど大手住宅企業とスマートハウス技術周辺の大企業との提携や買収による合従連衡が一気に進んでいる。
では、スマートハウスなるものを消費者は受け入れるだろうか。
私の回答は否である。
上記のように、世界的規模での信用収縮と雇用不安、所得低下という状況にあって、太陽光パネルに蓄電池、スマートメーター・・・といった高額設備を一般の住宅ユーザーが受け入れるとは到底思えない。
だがこのことはスマートハウスを推進するハウスメーカーも百も承知であり、「スマートハウスでは、快適な生活を我慢せず無理なく省エネができます。これからはスマートハウス以外、もはや家ではありません」と声高に言いながら、落としどころは「家電集約住宅」への追い込みであろう。
「家電集約住宅」とは空調設備やLED照明、小さな蓄電池、その他省エネ家電程度のものをすべてセットした住宅である。
つまり住宅だけでは高めにくい付加価値を、このような設備をスマートハウスの名のもとにセット販売していく販売手法である。恐らく消費者はスマートハウスに大きく訴求され、しかしとても買える値段ではないと知ると、結果としてメーカーの進める「家電集約住宅」を購入するというシナリオなのだろう。
パッシブハウスがビルダー、工務店を救う
スマートハウスを推し進める大資本装置集約産業連合に工務店やビルダーはどう対応していけばいいのか。
私は「パッシブデザイン」がその切り口になると考える。
パッシブデザイン住宅とは「敷地条件、気象データ、建物の性能(気密+断熱)を細部まで考慮して冷暖房負荷を正確に求め、日射や風の流れを利用できる窓位置にすることで、住宅設備をミニマム(極小値)にした、居住性の高い省エネ住宅」のことである。
なぜ、パッシブが中小の住宅会社を救うのか。 以下にポイントを挙げたい。
1 [図]のように、スマートハウスが左脳的な文明志向住宅であるのに対して「パッシブ」は右脳的文化志向住宅である。従って、住宅設備や装置に集約した家づくりでなく、設計思想や暮らし方の提案というソフト面での差別化が可能であり、装置の価格競争にさらされることが少ない
2 文明志向の左脳型顧客よりも、文化志向の右脳型顧客の方が良質な顧客が多い
3 「パッシブデザイン」の定義は非常に多様で幅が広い。従って様々なパッシブ住宅を作ることができ、各企業のオリジナリティーが発揮しやすい
4 スマートハウスの収益構造が装置や設備販売にあるのに対して、パッシブ住宅は設計の工夫や外構、遮光、暮らし方、地域の風土などを反映したコンサルティングに重点があるため、中小企業に適した収益構造を構築できる
まとめ
東日本大震災をきっかけとして、消費者意識は一気に省 エネや自然エネルギーに向かっている。この大きなトレンドのうねりを、住宅産業がどのような受け皿で受け止めるのかがここ数年の大きなテーマである。
これまで、ほとんど省エネや自然エネルギーに関心を持たなかった多くの一般消費者(最も大きいボリューム層)が、環境やリスク対応という大きな風に乗って、スマートハウス的左脳市場に流れ込めば大手企業連合に対して有利となり、パッシブハウスの方に向かえば中小住宅会社にも勝機が生まれる。
その意味では、これまでパッシブ住宅に取り組んできた一部の住宅企業は、パッシブ原理主義(自分たちの考えだけが絶対と考える人々)の罠に陥ることなく、「パッシブという価値を認めてもらう」ために協調し、パッシブデザインへのトレンドを形成していく努力こそが、自分たちが生き残る唯一の方法であることを肝に命じるべきである。
原理主義は破壊しか生まず、決して創造にはつながらない。そのことは歴史が証明しているはずだ。
未来通信3号 特集記事 住宅産業ビッグバン「2012年という年の読み方」から抜粋
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2住宅産業における「スマイル・カーブ」化
スマイルカーブ化とは
アップルの強さの秘密
iPad に iPhone、iPod…多くの人が今一番欲しい商品では ないだろうか。どれもコンパクトで高性能、 いかにもアップルのブランドイメージを体現したカッコいい製品ばかりである。しかし冷静にその中味を見ていくと、実はアップル固有の技術というものが製品に投影されていないことに気づく。
売上げ絶好調の新型Ipad(出所:Appleホームページ)
化の過程で、それこそ血の滲むような努力を続け、部品の合理化や小型化などを行い、その積み重ねによって製品全体の小型化を実現 した。しかし、アップル商品にはそうした「モノづくり」の面における努力の痕跡や技術的な進化の跡は見られない。
もちろんコンパクトでカッコいい端末に最大で 64GBものデータ容量があることは画期的なイノベーションといえるが、そのメモリー自体は韓国のサムスン電子が供給しているものだ。また、アップル製品の大きな特徴となっている独特のデザインを実現する加工技術も外部の委託企業が 支えている。
端的に表現すれば、アップルの商品とは、「モジュール化」されたデバイスの寄せ集め、カッコよく化粧された半導体(メモリー)や液晶ディスプレーの固まりそのものである。
それではアップルが果たしている役割とは何なのだろうか。
それは、まず製品そのものを開発したこと、そして iTunesやAppStoreといった音楽や映画、アプリ等コンテンツのネット販売のビジネスモデルを立ち上げ、将来にわたってモデルを通じて利益を上げる仕組みを構築したことにある。つまり、アップル最大の功績は、新たなコンテンツ流通の仕組みを作り上げたところにある。
スマイル・カーブ現象
このアップルの事例は、電子エレクトロニクス産業で数年前から言われている「スマイル・カーブ」現象そのものといってもよい。
スマイル・カーブとは、台湾エイサー社のスタン・シー会長がパソコンの各製造過程での付加価値の特徴を述べたのが始まりとされている。付加価値を製造過程の流れに沿って図示すると人が笑った口のような形になることからスマイル・カーブと呼ばれてい る[図]。
これが意味するのは、川上の企画開発と川下のアフターサービスなどにおいては付加価値が高くなるが、中流の製造・ものづくりの過程では付加価値が最も少なくなるということである。
パソコン市場を見ても、川上でOSやMPU(マイクロプロセッサー)を開発したマイクロソフトやインテル、あるいは川下でプリンタのトナーの販売や修理などを行うようなビジネスは儲かっているが、パソコン自体を製造するメーカーは低収益に苦しんでいる。
アップルはこのスマイル・カーブ化しつつある業界の事業構造を十分理解し、戦略の柱に据えて見事に付加価値の高い(利益の上がる)両極を押さえるビジネスモデルで大きな勝利を収めた。
一方、製造技術に圧倒的な強みを持っていたソニーは、その強みゆえにスマイル・カーブの谷に沈んでしまったということが言えよう。
これは電子産業だけの現象でなく、自動車産業や消費材全般においてもスマイル・カーブ化が 進行している。トヨタ自動車の豊田章男社長も記者会見でこう語っている。「日本のトップ企業であるトヨタ自動車でさえこのスマイル・カーブの洗礼を受け始めている」。
一方、アセンブルメーカーの利益率低下を尻目に、利益率が最も高くなっているのが中古車を取り扱う企業、補修改造やオートローンを提供する企業である。つまりは、車を買うための支援ビジネス、買った車を長く安全に使い続けるためのソリューション、更にその車をより高く売るための仕組みの提供といった周辺サービス産業が儲かっている。
これらは今後の住宅産業の未来を見通す際、格好の先行事例に見えてならない。
未来通信4号特集記事 住宅産業ビッグバン「スマイルカーブ化に向かう住宅産業」から抜粋
全文を読む ▷▷▷PDF
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コモディティ化とスマイルカーブを考える ▷▷▷PDF
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引用及び文責 SSDP 渡邊豪巳
天の恵みを使う家
今日は家の話
先日からチラチラと書いていたように、大阪の堺市で工事中の「天の恵を使う家」がまもなく竣工します。
ついては、完成見学会を行いますので、興味のある方は家の立てる予定のある人もない人も、どうぞ見に来て下さい。同業者の方も歓迎します。
いずれかの時間におこし下さい。所要時間は毎回1~1.5時間程度です。
なお、22日は若干工事中の部分が残っていると思います。
申込は、明月社のHP http://www.mei-getsu.com/ からお願いします。
詳しい場所などをお送りします。
■■
さて、一体何が「天の恵み」なのか、少し書いておきたい。
天から降りてくるものと言えば、やはりお日様と雨だ。 それに、空そのもの。
それらを、できるだけ効率的に、人様に迷惑かけずに活用しようという試み。
この家は、住まれる方がこうしたことにとても積極的に関心を持っておられたので、いろいろと提案して採用していただいた。
まずはお日様から。
最初に言っておくと、この家に太陽光発電はない。
理由はハッキリしていて、太陽光発電はまだペイできるレベルに達していないから。
巨額の税金と太陽光発電促進付加金というほぼ全国民から強制徴収したオカネを投入して、どうにか採算がとれるようにしているのであって、太陽光発電だけではまったくの贅沢品である。
詳しくは以前の記事に書いたので、「太陽光発電を使わないとはけしからん!」と思われる方は、ぜひ読んでみていただきたい
とは言え、太陽光発電を取り付けてはいけないのかといえば、そこまで言うつもりはないが、同じ太陽光の装置をつけるのであれば、だんぜん太陽熱温水のほうをお勧めする。
少し前に○○ソーラーという会社が強引な営業をやらかして、いたく不評を買ってしまったソーラー温水だが、これはその会社が悪いのであって技術が悪いのではない。むしろ、この技術を貶めるために、ことさらに○○ソーラーの悪行がクローズアップされたような形跡もある。
とにかく、この装置はエネルギー効率が断然いい。太陽光の50%くらいを熱エネルギーとして活用できる。太陽光発電は変換効率が半分以下である上に、電気を熱に変換する際にまた大きな無駄が出るから、まったく比較にならない。
各部屋に光が入るようにして、かつ照明をできるだけLEDにする。暖房は太陽熱温水床暖房。大型テレビは置かない。もちろん、IHクッキングヒーターなんて使わない。真冬以外は暖房便座をオフにする。 できるだけ電気使用を減らし、太陽熱温水で足りない分だけをガスで補う。
薪ストーブも良い選択肢だけれども、こちらの家の場合は施主さんの生活パターンが薪ストーブには合わなかったので採用していない。
■■
太陽の次は雨である。
雨水タンクは安価でもあり、最近設計した家にはほとんど取り付けている。
タンクの下の方に蛇口が付いていて、じょうろに汲んで庭や菜園の散水に利用している。
この家にもその機能はついているが、実はもっとパワーアップしている。
タンクの横に小さなポンプをつけて、トイレと屋上に送っている。 屋上庭園の芝生に自動灌水するのと、トイレを流すのに雨水を使ってるのである。
水道代がもったいないということもあるけれども、水が豊富なように見える日本でも、実は真水は貴重なのだと言うことを意識できるというメリットもある。
水問題は大きな問題で、砂漠化はオンダンカなどよりも急激で深刻な問題になっている。日本だって、食料という形で実は膨大な水を輸入しており、水の自給なんてぜんぜんできていない。
砂漠化については
もっとも、小さいとは言え電動ポンプを使っているので、停電や故障するとトイレが使えなくなってしまう。これは困るので、そんなときは便器に座ったままでも上水に切り替えができるようになっている。
■■
もうひとつ、この家の目玉とも言える雨水利用装置が付いている。 それが、壁面冷房
と言うと大層だが、じつは外壁面に雨水をポチポチ垂らして、気化熱で冷やすという仕組み。
壁面打ち水といった方が正確かも知れない。
西日の当たる大きな壁面の一番上に特殊なホースが付いていて、そこから雨水をタラタラと落とすのである。さて、どのくらいの効果が出るかは、この夏にデータを取らせてもらおうと思っている。
気化熱はびっくりするぐらい大きなエネルギーなので、一定の効果は確実にあるはずだ。
気化熱がどのくらい大きいかというと、仮に完全断熱された6畳の部屋があるとすると、その中で10ccの水が蒸発すると、部屋の気温が約1℃下がるという計算になる。
この外壁冷房は、壁面に水を染みこませるのがミソなので、全然染みこまないサイディングなどの今時の壁では効き目が弱い。また、染みこみすぎるモルタル壁では多用するとメンテナンス上の問題があるかも知れない。
それに、水の染みた範囲と染みてない範囲では色が少し変わるので、見た目をあまり気にする方には向かない。
そんなことよりも、天の恵みを使っていることに喜びを感じる人にお勧めしたい。
■■
天の恵みの太陽と雨の両方を使うのが、屋上庭園。
屋根の半分を平らな屋上にして、芝生を貼っている。今時は屋上庭園の技術も進んでおり、安心して使うことができるようになった。
屋上緑化も、きわめて断熱効果が大きく、気化熱による冷却効果も期待できる。
これも、緑化している下の部屋と、通常の屋根の下の部屋でデータ取りをさせてもらうつもり。
(通常屋根の下は、天井を高くして熱気を少しでも遠ざけるようにしているが)
屋上庭園は、こうした熱環境だけでなく、空そのものを楽しむという余録もついてくる。
とにかく、気持ちいい。
適度な手摺り高さにすることで、近隣との相互のプライバシーも守られ、望遠鏡を据えれば夜の空も楽しむことができる。
ちなみに、補助金はなくてもやる価値のある屋上緑化だが、堺市の場合は施工費の50%が補助された。やってみたい方は、自治体に問い合わせてみるといいと思う。
■■
と、自然エネルギーのことばかり書いたけれども、家そのものも吉野杉をふんだんに使った、なかなか見応えのある家に仕上がったと思っている。
工務店も大工さんや職人さんたちも、良いものにしようという気持ちを持って取り組んでくれたので、現場に行くと「良い気」が満ちている。
ぜひとも、見学会に来てみて下さい
申込は、明月社のHP http://www.mei-getsu.com/ からお願いします。
原発のない社会にむけた小さい実践として、賛否両論に評価していただければ幸いです
年7.6兆円の超巨大市場(*1)である住宅リフォーム。「個々人の発想力を鍛える」という視点で見たとき、とても残念な変化が起こっています。
それは「定額制の拡大・浸透」です。
リフォームの定額制サービスは、地場工務店が昔からやっていたことでしたが、ここ数年大手が追随・発展させ、「新築そっくりさん(*2)」「まるごとホーミング」「暮らしアップ」「ミチガエル」「まるで新築くん」「Marm(マルム)」といったブランドが雨後の竹の子のように立ち上がりました。
仕様や設置設備はだいたい決まってしまっていますが、間取り変更も給排水管の更新も内装替えもコミコミの、値段です。「60m2のマンションなら設備新品・追加料金なしで265万円」「一戸建ての外装・内装すべて一新で坪21万円」などとその安さを競います。
設置設備や仕様を絞り込むことで、大幅にコストダウンし、その分を顧客にも還元する、という面から見れば悪いことではありません。
しかしこれらが「わかりづらかった価格や見積を明確にした!」と受けている、というのは全く解せない話です。
「コミコミで幾ら」のどこが「明確」なのでしょう。確かに、単純でわかりやすい、のでしょう。でも中身は完全なブラックボックスです。
しかも契約前から施主とリフォーム会社は、ゼロサムゲームを戦うことになります。動く金額は同じ(=定額)で品質もほぼ一定。とすれば施主は自分の希望(ワガママ)を通せば勝ち、リフォーム会社はそれを封じ込めれば勝ち、という構図になるのですから。
もともと 住宅工事(新築もリフォームも)費用の「曖昧さ」の根源は、そのコミコミ体質にあります。
工程で言えば、前半の設計と後半の施工がゼネコンと同じでコミ。施工時の費用項目で言えば、材料と工賃がコミ。費目も数量も単価もわからない「一式幾ら」というやつです。
たとえ、ちょっと詳しい見積をもらったとしても、A社は施工費目別(床張り替え、クロス張り替え、水回り一式、建具一式、家具一式、等)、B社は箇所別(リビング一式、キッチン一式、風呂一式、等)だったりします。
これでは2社間を比較することが難しく、結局「総額」でしか決められません。ちゃんと比べられないのなら、細かくなっていても意味はありません。
リフォーム「定額制」はある意味、施主側と企業側の開き直りの産物なのです。
どうせ内容は詳しくわからないし比べるのも手間だし、全部コミコミの一式幾らでいいや、という面倒くさがり屋の施主。どうせリフォーム施工の手間は大して変わらないし、施主もわかりやすさとお得感で買ってくれるだろうと見切ったリフォーム会社…。
最近流行の「中身が見える福袋」みたいなものなのでしょう。
施主側の求める価値が、その「コミコミ」の中で十分実現されるのであれば、外野が文句をいう筋合いのモノではありません。
それでも、勿体ないな、と思います。お金的にも、価値的にも、そして自己改造的にも。
新築でもリフォームでも、少しの手間を掛けて「材工分離」、つまり施主支給品を増やせば、コストは確実に下がります。少しの手間を掛けて、間取りの微修正を試みれば、マンションでも十分「楽しいイエ」が実現できます。
なのに「コミコミで変更幅固定」の定額制は、それらの工夫を許しません。
いや多分、だからこそヒトはそれを好むのでしょう。ゼロから考えることをヒト、特に日本人は面倒くさがり、嫌います。
大体の枠があって、その中の選択肢3つ、くらいで十分なのです。「その方が安いですよ」とまで言われたら、否も応もありません。3つのうちどれを選ぶか、では悩むかも知れませんが、そこからはみ出ることは試みもしません。
ここには日本人(*3)の「型に嵌まるのが好き」という性質が見て取れます。
血液型に星座占い、セットメニューにパック旅行、パケ放題にホワイト学割…(*4) 。
心や時間の余裕と、情報処理能力、そして決断力がなくては、高い自由度を「楽しむ」ことはできません。リフォームの定額制ばやりは、残念ながらわれわれの、自由度への対処力不足を示しているのでしょう。
いや、そんな分析などどうでもいいのです。
リフォームのような自由度の高い、なんでもありで工夫次第でどうにでもなるような機会を、自己改造のために利用しないでどうする!
身銭を切るからこそ、リフォームは真剣な練習の場となります。
いろいろ調べ、考え、もしかしたら模型さえ作り、検討するでしょう。自分だけでは決められませんから、家族の意見もちゃんとヒアリングしなくてはいけませんし、それらのニーズと様々な制約を勘案した上で、様々な解決オプションが考え得ます。
最終的には予算の中での苦渋のトレードオフを経験もするでしょう。そして、完成したときの感動。そのプロセスこそが『デザイン思考』です。
ここでは、中古マンションリフォームを題材に、その事例を見てみましょう。
一戸建てだと、中古物件は特有のリスクを持っています。
築年数が浅いものでも、断熱や通気など施工の質は住んでみないとわからず、いわんや耐震強度などに関わる基礎や構造材の出来などは、大地震がこないと実際にはわかりません。
だから私個人としては中古一戸建ての購入、という選択肢はほぼあり得ないな、と感じます。
しかし中古マンションの場合には、それらのリスクがある程度カバーされます。
開発会社はどこか、施工会社はどこか、ご近所さんや住人による評価はどうか。それらをちゃんと情報収集すればだいたい、わかります。特に中古であれば、現に住んでいる人々が居て、そのヒトたちからの情報が得られるのですから、住環境の評価は新築より確実なはず(*5)。
逆に新築マンションは、通常、建つ前に購入を決めなくてはいけません。かつ新築といっても、間取りの自由度もたいしてありません。
そうであれば、割安の中古マンションを購入し(ただし築浅のもの)、リフォームして住む。これは今後の住宅選択における1つの大きな選択肢となるでしょう。
人にもよりますが、「リフォーム」とは割と小規模なもの、「リノベーション」とはいったんスケルトンにして作り替えてしまうことを指します。
大ざっぱに言えば、前者がクロスの張り替えや老朽設備の取り替え・家具の入れ替えで100~200万円のコース。後者が、壁も床も天井も壊して躯体丸出しにし、水回りも含めて大きく間取り変更し、設備(風呂・洗面台、キッチンなど)を全面交換して1000万円のコース、です。
元の間取りやドア類に不満がなければ前者で良いですし、不満なら後者で行くしかありません。
いや、実はマンションリフォームにはその中間に第三の選択肢があります。マンションでは、一戸建てに比べて「間取り変更がしやすい」からです。
一戸建てでは建物の構造上、とれない壁や柱が多いので、間取りの抜本的変更には多くの困難を伴います。というより、お金を掛けてもどうにもならないことが多いと言うべきでしょう。
しかし、だいたいのマンションはいくつかの太い柱と住戸間の壁で構造を支えていて、専有面積内を区切っているのは、簡単な間仕切り壁に過ぎません。
壁を壊すも作るも自由(=お金があまり掛からない)なのです。
数年前、知り合いが購入した中古マンションのリフォームを、中間コース、つまり予算500万円でやることになりました。
といっても新しい家具や電化製品のお金が必要なので、実際リフォームそのものに掛けられるのはマックス450万円くらい。これで、ちょっとした間取り変更が、できます。作り付けの家具も一部分なら入れられます。
そう、だけどそれらは一部分だけ。そのメリハリを、どうつけようか。そして、いったい、どんな間取りと、どんな作り付け家具にしようか。
約2ヵ月間半、私はリフォームとリノベーションの中間(リフォーメイション、とでも呼びましょうか)の自由さと不自由さを楽しみました。
最初の選択肢は、「誰に頼むか」でした。
最近マンションリフォームをやった友人の紹介も受けて2社(者)を選びました。1社は大企業、1者は個人の建築士。全く違う、2社(者)でした。
前者は大手建設会社でリフォーム事業も大規模に営んでいます。HPには数百に上る実例が紹介されています。後者は個人の一級建築士さんで、HPにも独創的な作品がならびます。イタリアの世界遺産修復で腕を磨いた俊英です。
まずは実現したいコンセプトや具体的変更案をこちら側でまとめて、2時間ほどで各々に説明しました。そこには実は間取り変更要求は入っていませんでした。ムリだと思っていたからです。
「予算は400万円程度」「もし可能なら間取り変更も」程度にして2者の提案を待ちました。
1週間後、まったく違うタイプの提案書が上がってきました。
大手建設会社からはズバリ「見積もり概算」が。そしてその場で手書きの「間取り変更案」も。建築士さんからは「コンセプト提案」として数々のデザイン画が。そこには作り付け家具デザインに加えて、2ヵ所の「間取り変更案」も含まれていました。
廊下と隣接する寝室2つのデッドスペースを統合しての「Pre-Room(前室)」提案。そして、ドアを取り払ってキッチン部屋とリビング・ダイニングをつなげる「オープンキッチン」提案。いずれも素晴らしい。
ただし見積もりについては「だいたい収まるでしょう」「詳しくは施工会社に相見積りをとって確認ですね」のみ。かつ「施主支給を増やした方が良い」「グレード次第で大きく変わりますし」とも。
結局、この建築士さんのセンスと割り切る力に期待して、契約しました。彼の普段の仕事からすれば、力を余す案件だとは思ったけれど、引っ越し予定日まで2ヵ月弱、お付合い願うこととしました。
彼のアドバイスに従って、また2社、施工会社を選び(これまた、片や中堅工務店、片や一人親方という、全く違うタイプ)、見積もりをお願いしました。
両者に現場で各一時間、お会いしてお話しします。2者ともがその場で採寸等をしながら、見積もりのための情報を集めていきます。
一週間後、建築士さんから連絡が入る。「2社から見積もりが出ましたから、明日打ち合わせを」
打ち合わせで出てきたのは1枚の見積もり比較表でした。
そこでは双方の見積もりが、項目ごとにきちんと揃えられ(抜けているところは適当に埋められ)、その額がきちんと比較されていました。
すでに2社には彼が連絡を取り、その見積もりの凸凹もある程度、均(なら)されてもいました。もちろん低い方に合わせて。
さらに、重要な作り付け家具については、別に見積もりを取った家具屋さん(若い家具職人)に頼むことにし(つまりその部分は2社の見積もりから抜き)、見積もり比較が完成しました。
これこそプロの技。建築士による、たった1日の早業です。 「額もだいたい同じに揃いました」「だから内容的には差がありません」「どちらにしますか?」
一応、尋ねます。「あなたにとってどちらが働きやすいですか?」 「どちらも大丈夫です。そういうところにしか(見積りを)お願いしてませんから」
了解。では、あとは…勘で。
一般論で言えば、工事関係者を増やし、複雑にすることは品質の上でもコストの上でも得策ではありません。そういう面では「リフォーム会社」なるものに一括で頼む方が、よく見えるでしょう。
でも、どこに頼もうが実際には工事種類ごとに傘下の会社や職人さんたちが作業を行うことに変わりありません。コスト的には大差はないのです。
かといって一般の個人ではそんな中で「品質と管理のバランス」を取ることはできません。つまり良い品質のものだけいいとこ取りをして組み合わせようとしても、管理コスト倒れしてしまう(もしくは管理に失敗する)のです。
それをやってくれるのが、建築士、でした。
中古マンションの中規模リフォーム(リフォーメイション)において、あえて建築士を起用する価値が3つありました。
第一は「複雑さの管理能力」による「いいとこ取り」ができること。結果として質の高い施工を、低コストで期待できます。
第二はコスト意識の高さ、です。逆に思うかも知れませんが、自分で直接管理するからこそ余計な手間を減らす、工事の「種類」を減らすことを気に掛けてくれます。たとえば、私が思いつきで「洗面所の床はテラコッタとかのタイルにしたいなあ」などとつぶやくと、すかさず「そうすると左官屋さんが新たに入ることになりますから、最低10万円は掛かりますよ」と。私「う…」
第三はもちろん、提案力の高さです。私自身、リフォームプランを相当考えてから臨みましたが、提示されたコンセプトは大きく期待を上回るものでした。プランの議論相手として、全く以て申し分ありません。当然です。そのプロなのですから。
私も何回、間取り図を書き直したでしょう。何回、PCでの内装シミュレーターを走らせたでしょう。そして、建築士さんがどんどん送ってくれる、資材サンプルを前に、何回その完成形を心に想い描いたことでしょう。
廊下と部屋のデッドスペースを寄せ集めたPre-Roomは(施主側の要望で)「図書室」となって本好きの子どもの居場所となり、オープンキッチン化は料理好きのお母さん(とたまにお父さん)の大きなモチベーションとなりました。
そして、私にとっても、多くの選択肢を出しては選ぶ思考・行動訓練となりました。2ヵ月半、大いに手足を動かして考え、つくり、議論していく『デザイン思考』を体感しました。建築士の田邉淳司さん、ありがとうございました。
身銭を切ったリフォームで、学べることは膨大です。もしあなたにその機会があれば、決して「定額」などに逃げないこと。そして、できれば建築士さんと一緒にその機会を最高の『デザイン思考』練習の場とすること!
参考情報
『発想する会社!』『イノベーションの達人!』 (早川書房)
トム・ケリー、ジョナサン・リットマン
富士経済HP
田邉淳司一級建築士事務所 HP
『ハカる考動学』(ディスカヴァー21)三谷宏治
『ペンギン、カフェをつくる』(東洋経済新報社)三谷宏治
キャリアインキュベーションHP『学びの源泉』
■文中注釈
*1 富士経済の調査によれば、2011年度のリフォーム市場は、全体で約7.6兆円、前年度比1.8%増。新築市場は年間18兆円前後で縮小中。
*2 住友不動産の商品で一戸建て定額リフォームの先駆。「価格は、床面積×m2単価で明瞭」と謳う。受注棟数は全国で7万棟を超えるとか。
*3 とはいえ、アメリカ人も単純なものが好きである。選択肢が多すぎるととたんに売れなくなる。
*4 最近は、ちょっと幅を楽しむ余裕が出てきたので、少しの選択肢を求めるくらいには、なっている。パック旅行より組合せ型旅行、セットメニューより選択肢付きのプレフィックスメニューが流行り。
*5 情報源は、決して売り主や仲介会社だけに寄らないこと。高く売りたい人たちが悪い情報を積極的に言うことはないので。特に隣地の開発計画等は注意すること。
地震保険は巨大災害に備えるためのほぼ唯一の現実的な対策です。とくに地震保険の必要性が高いのは、自宅を保有している人、住宅ローンが多く残っている人、貯蓄が少ない人、自宅が損壊した場合に身を寄せるところがない人です。
住んでいるのが賃貸住宅であれば経済的なダメージは限定的ですが、同居できる親類などがいなければ、新たに家を借りるための費用が必要です。家財に損害をうけた場合の負担も念頭におく必要があるでしょう。ダメージが大きいのは、自宅を保有し、住宅ローンが多く残っているケースです。新たに住まいを確保するための費用と、残った住宅ローンとの二重負担となり、貯蓄に余裕がない場合はとくにリスクが高いといえます。
下図は地震保険に加入・未加入のケースを比較したものですが、未加入では大きなマイナスを抱えての再スタートとなり、貯蓄額や地震保険で支払われる額、住宅ローンの残債額によって、生活再建のスピードが異なることが分かります。貯蓄を増やす、住宅ローンの借入額を抑える、地震保険に加入するといった自助努力により、マイナスからの再出発を避けやすくなるのです。
保険料の負担が気になるところですが、火災保険を見直して地震保険に加入する方法もあります。火災保険は住宅ローンを組む際、勧められるままに加入した人がほとんどですが、ただ入ってさえいれば安心というわけではありません。補償が厚いほど安心と考えがちですが、少額ですむ損害は貯蓄で対応し、地震に代表されるような貯蓄では対応しきれないような損害こそ、保険で備えるべきでしょう。
こうした考え方が本来のリスクマネジメントであり、家計が負担する保険料を抑えるコツでもあります。火災保険の契約では、住所地や建物のリスクに応じて補償を選ぶのがポイントです。最近は必要性の高い補償を吟味することで保険料が抑えられる火災保険もあり、しっかり選べば保険料の節約は十分可能。図はその一例で、浮いたお金で地震保険に加入することができます。
自宅が全壊しても住宅ローンの返済を続けなければならないのは精神的にも負担ですし、新たな住居費との二重負担は家計に深刻なダメージとなります。住宅は産業の裾野が広く、国は経済振興の狙いもあって持ち家政策を続けてきました。しかし震災で自宅を失った場合のダメージについては、原則的に自己責任というのが現状です。金融機関においては、住宅ローンを貸し出す際に「震災で自宅を失っても住宅ローンは残る」ということについて注意喚起することが求められます。
さらに提案したいのは、「地震団信」の創設です。住宅ローン借り入れの際には、債務者が死亡または高度障害に陥った場合にローンの残債額と同額の保険金がおり、返済が免除される「団体信用生命保険(団信)」への加入が条件となっています(住宅金融支援機構のフラット35では任意加入)。この地震版ともなる「地震団信」をつくり、全員加入とすれば、自宅が全壊しても住居費の二重負担を免れることができます。保険料を全国一律、補償を全損時のみとすると、保険料はかなり抑えられます。
セミナーなどで二重負担のリスクなどをお話したあと、「地震団信」の話をすると、被災地か、別のエリアかを問わず、理解を示す方がほとんどです。リスクを正しく認識することが備えの重要性を実感し、必要な対策を考えるための第一歩といえます。
家は人生最大の買い物。完済までの道のりが長い住宅ローンは、慎重に返済計画を考えたい。固定金利型のローンにするか、変動金利型にするか――。歴史的な低金利の現在、変動金利型を選ぶ人は多いが、その仕組みは複雑で、注意点も多い。
「変動金利なら年0.875%」――。大手銀行やインターネット銀行の住宅ローンで、年1%を切る返済金利が珍しくなくなった。不動産会社との提携ローンなどではさらに低い場合もある。
又、住宅ローンは金利にばかり目が向きがちだが、最も重要なのは無理のない返済計画を立てることだ。完済までのローン負担を軽くするにはどのような方法があるのか。
将来に思わぬリスクを抱えないよう住宅ローンの基礎知識をまとめた。
住宅ローンは銀行が基準とする金利を基に、様々な条件で引き下げたうえで実際の返済金利が決まることが多い。大手行の基準金利は現在、変動で年2.475%。引き下げ幅が大きいため、実際の返済金利はかなり低い。
金利のタイプは主に3つある。(1)金利を半年ごとに見直す「変動金利型」(2)一定期間の金利は変わらず、期間終了後に改めて条件を決める「固定金利特約型」(3)返済終了まで金利が変わらない「全期間固定金利型」だ(表A)。
一般に固定金利型よりも変動金利型のほうが返済金利は低い。例えばみずほ銀行の住宅ローンは現在、変動金利型が年0.875~1.275%、35年間の全期間固定金利型は年2.40%だ。
「金利が低い時期にお金を借りるなら、長期固定金利にすべきだ」と指摘する専門家は多い。全期間固定金利型は借りた後に市場金利が上がっても返済負担は増えず、将来の資金計画が立てやすいためだ。ファイナンシャルプランナー(FP)の深野康彦氏は「変動金利型との金利差は、上昇リスクを避ける保険料と考えてもいい」と話す。
固定金利特約型は最初の「特約期間」が終わった後は不透明だ。基準金利からの引き下げ幅が特約期間だけ大きいプランは、引き下げ幅が縮小すると、基準金利が上がらなくても返済金利が上がる。
最近は特に変動金利の低さが目立ち、主な銀行では借りる人の約9割が変動金利型を選ぶ。金利が低ければ、毎月返済する金額は当然少ない。
ただ変動金利型の住宅ローンは注意点が多い。FPの深田晶恵氏は「金利が上がれば利息が増えるほか、返済計画の先が読めなくなる」と話す。返済額の試算(グラフB)を基に考えてみよう。
住宅ローンは毎月払う元金と利息の合計額を均等にする「元利均等返済」で返す人が大半だ。この方法は初めは元金返済に回る額が少なく、ローンがなかなか減らない。
早い段階で金利が上がると毎月返済額が大きく増える。多くの銀行は返済額の急上昇を避けるため「毎月返済額は5年間変えない」「変えるときはそれまでの1.25倍が上限」というルールを設ける。
ただ金利が上がると元金返済のペースが当初の予定より遅くなる。グラフBの返済金利は初め年0.875%で、毎月返済額は約8万3000円。1年後に金利が1%上がると、計算上は毎月返済額は約9万7000円になるが、5年ルールで据え置かれる。毎月の支払いのうち利息部分に回る額が増え元金の返済は遅れる。2年後も同様だ。
元金返済が進まないと、たとえ金利が下がっても毎月返済額が増えることもある。遅れが返済最終月に残ると原則、一括で支払う。
繰り上げ返済にも気をつけたい。元金返済が進まない状態で繰り上げ返済すると、5年ルールが外れて毎月返済額が増えることもある。例えばBのケースで借り入れから3年後に繰り上げ返済すると、その時点の返済金利とローン残高、残りの返済期間を基に計算し直し、毎月返済額は約11万円に増える。繰り上げ返済は5年ごとの返済額見直しに合わせるほうが無難だ。
変動金利型で特に気をつけたいのは借入額が多く返済期間が長い人だ。FPの高田晶子氏は「固定金利では毎月返済額が多くて払えない人が、変動で借りるのは危険」と指摘。「いざとなったら預貯金などで返せる額なら変動金利でもよさそう」と話す。深野氏も「3%くらい金利が上がっても返済に困らない人や、10年ほどで返せる人は、変動も検討していい」とみる。
金利の種類は途中で変更できることが多い。「変動で借り、金利が上がりそうなら固定に変えよう」と考える人もいる。ただ変動金利は短期金利、固定金利は長期金利に連動し、動き方が違う。固定金利に変える機会を逃す恐れがある。SMBC日興証券チーフ債券ストラテジストの野村真司氏は「ともに数年は大幅な上昇は考えにくいが、長期金利は短期金利より動きが速く、振れが大きい」と話す。
主な銀行は変動金利と固定金利を組み合わせられる「ミックスプラン」も用意する。FPの深田氏は「借入額が多くなりすぎないよう注意して活用すれば、変動金利で毎月返済額を抑えつつ、固定金利で将来のリスクを減らせる」と助言する。
(大賀智子)
会社員のAさん(29)は東京都杉並区に戸建てを新築した。用意できた400万円は不動産会社への仲介手数料などに消え、物件価格に頭金を入れずに35年の変動金利型ローンを組んだ。銀行からの問い合わせもなく「あっさり買えたが……」とAさん。
「マイホームは物件価格に対して2割以上の頭金を入れないと買えない」というのは過去の話。今や2割の頭金を用意している人は「全体の2割ぐらい」(メガバンク)という。Aさんのように頭金ゼロの人も珍しくない。
だが住宅ローンの場合、金融機関が貸してくれる額が、自分にとって無理なく返せる額と考えるのは間違いだ。「頭金ゼロで高額の住宅ローンを組むのは危険」とファイナンシャルプランナー(FP)の西沢京子氏は指摘する。
頭金を用意するメリットは、金融機関からの借入額が少なく済むことだけではない。不測の事態や住み替えで物件を売却するときに、手放しやすくなるという点も大きい。
図Aは住宅価格の下がり方と、一般的な固定金利型の住宅ローンを組んだ際の残高の減り方のイメージだ。首都圏中古マンションの築年数ごとの販売価格を調べたデータをもとに作成した。長期のローンを組んで新築物件を購入すると、しばらくはローン残高の減り方に比べて住宅価格の下落ペースが大きい。
頭金ゼロで買った家を数年後に売ると、物件の売却価格よりローン残高が大きく、ローン返済のために差額の現金を用意しなければならない場合がある。いわゆるオーバーローンだ。
一方、頭金を用意できれば住宅価格とローン残高の差は縮まり、リスクは減る。西沢氏は「物件価格に対して頭金を2割近く用意できない人は、住宅購入を考え直すべきだ」と指摘する。
住宅ローンの総支払額を抑えるには頭金を用意し、返済年数をできるだけ短くするのが良策だ。だが長期の返済過程では子どもの教育資金が必要になったり、転職を迫られたり、予期しないことが起こる。FPの高田晶子氏は「将来のリスクを考慮し、月々のローン返済額は余裕を持ち、返済年数は当初は長めに設定するのが安心」と助言する。
返済を始めた後に、余裕資金がたまったら、ローンの一部を繰り上げて返済することも可能だ。繰り上げ返済すれば、返済年数を短くしたり、毎月返済額を減らしたりすることができる。
繰り上げ返済の方法は2種類ある。(1)毎月の返済額を変えずに返済期間を短くする「期間短縮型」(2)返済期間を変えずに毎月の返済額を減らす「返済額軽減型」――だ(図B)。いずれも返済額をローンの元金部分に充てるため、総返済額を圧縮できる。
返済期間を短くする方が、毎月返済額を軽くするより利息を減らせる。例えば固定金利年2%で、元利均等返済(毎月払う元金と利息の合計額を均等にする方法)で3000万円借り入れ、返済開始から3年後に100万円繰り上げ返済したとする。期間短縮型で減る利息額は約86万円で、返済額軽減型の約2.4倍になる。
ただ返済期間を短縮すると、再び延ばすことは基本的にできないので注意が必要だ。教育資金などで将来、月々の出費が大きく増える可能性のある人は、毎月返済額を減らすのも手だ。このタイプは家計にゆとりを持って返済したい人に向いている。
金融機関や住宅ローン商品によって、一部繰り上げ返済の手数料や利用できる回数は異なる(表C)。こまめに返すか、一定額をためてからまとめて返すか――。性格として自分がどちらのタイプか見極めることも大切だ。
こまめに返す人はソニー銀行や住信SBIネット銀行などインターネット銀行が便利。手数料が無料で、返済額は住信SBI銀が1円、ソニー銀が1万円から設定できる。
大手銀行の場合、ネット経由であれば手数料は無料で、みずほ銀行は10万円、りそな銀行は30万円が最低返済額。住宅金融支援機構のフラット35を利用している場合、手数料は無料で最低返済額は100万円になる。まとめて返す人は大手行やフラット35でも使い勝手は悪くないだろう。
繰り上げ返済の効果は大きいが「実行できる人は5~6割程度」(高田氏)という。どの時期にどれくらいの額を返済するか、ライフプランに沿った「繰り上げ返済計画表」を作成し、目安にするのもいいだろう。
住宅ローンとの付き合いは長い。返済計画はしっかり立てたい。
(坂下曜子)
国土交通大臣から指定を受けた住宅専門の相談窓口である(財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター(通称:住まいるダイヤル)は、2010年度の住宅相談状況を発表した。
同センターによると、10年度の新規相談件数は2万75件で、09年度の2万3,232件より減少。相談者の区分として70.8%が所有者。次いで施工者の11.7%となっている。相談の対象となる相手方は、施工業者が46.9%。リフォーム業者の比率も増加傾向で18.6%。09年度より約3%上昇した。住宅に不具合がある、または瑕疵のあることが疑われる相談および契約上のトラブルがある相談の件数は、7,266件で09年度と比較して153%となっている。相談の多い不具合は、戸建は屋根からの雨漏りが1位(5.1%)。共同住宅では、外壁の剥がれが1位(3.7%)となっている。
また10年度の傾向で特筆すべきポイントして同センターは、以下の2点をあげている。
1.リフォーム見積チェックサービスではリフォーム工事の仕様などが不明確な相談が多い。相談者がリフォーム見積チェックサービスで一番知りたい内容は、「リフォーム工事全体の工事費が適正か」ということであるが、見積りをチェックして見ると「工事範囲や内容」、「性能や仕様」など価格の妥当性を判断するために不可欠な情報が不明確な場合が多い。業者に確認することを助言し、単価などの金額については、参考として、公表されている市場調査データを伝えている。
2.専門家相談では発生事案について、「どうしたらよいのか知りたい」という相談が多い。住宅のトラブルには法律的な問題と技術的な問題が輻輳しており、専門家相談を受けた相談者は、自ら解決方法を見出すことができず、どうしたらよいのかわからずに困っている人が多い。法的助言と技術的助言が同時に受けられる専門家相談は、「どうしたらいいかわからない」という相談者のニーズに合致している。との見解を述べている。
ここまで 2011年10月22日 住宅情報ナビ掲載記事から引用転記
2010年度の相談件数が前年度よりも減少している結果となっているが、これは、前年度に住宅エコポイントの問い合わせが多かったための現象である。エコポイントに関する問い合わせ件数を除くと、相談件数は増加しており、過去最高となっている。
新築件数が減少し、リフォームの需要が拡大している状況の中、事前の相談は、業者間の提示価格の差や性急な契約等を始め、工事内容や価格の妥当性に不安を抱える相談内容が主である。
トラブル発生後の相談に見られるように、ユーザーは技術的にも法的にも自ら判断する能力を持ち合わせていない場合が多い。この事から、ユーザー(施主)は常に一抹の不安を抱えながら工事を依頼している構図が想像できる。契約を結ぶ際には、最終的な理解は難しくとも、納得できるまでの確認を行う事が必要である。場合によっては、「住まいるダイヤル」等の機関を活用する事も望ましい。また、このような専門的第三者機関が、もっと身近に存在する必要性がある。加えて、行政サイドでは、リフォーム案件においても、重要事項説明の義務化等、消費者保護と良質ストックの創出の観点等からの制度設計も必要と思われる。
受注者側は、契約等の成果の獲得を急ぐ前に、信頼を獲得する事が先決である。その為には、工事内容、価格、品質性能を明確な根拠と共に提示する事と、それに対して理解を得るための説明能力を持つ必要がある。加えて、真摯な事業取り組みの姿勢で実績を重ねる必要もある。
SSDP事務局 渡邊豪巳
日経BP社のレポートでは、世界のスマートハウス・ビル市場は、2010年は1兆円程度であったが、2015年に約22兆円、2020年には65兆円に達すると予測している。我が国の市場も20年には5兆円の規模になるという。
スマートハウスとは、エコガラスや太陽電池、蓄電池、高速光通信などを備え、これらとスマート家電やタブレットデバイスが連携して快適で暮らしやすい環境を実現した近未来型住宅のことである。日本企業でも、積水ハウス、大和ハウス、トヨタホーム、住友林業、ミサワホーム、パナホームなど各社スマートハウスの新商品開発に余念がなく、それぞれが大手電機メーカーと共同でスマートハウス開発に邁進しているというニュースが住宅業界を賑わせている。一方、自治体との連動において、"スマートハウスタウン"の要素の開発も計画されており、現在あるIT技術やエネルギー開発技術を駆使した住宅が続々と出現していくだろう。
1棟1棟丹念に作り上げた住まいを提供する地場工務店やビルダーも、この流れには無関心ではいられない。地場工務店は、商品開発への資金、時間、人材を投入することは厳しくまた、小規模な開発では対応の困難な分野である。しかしながら、大手ハウスメーカーとの競合は避けられない。地場工務店1社では太刀打ちできないジレンマに陥る状況が予測される。
この状況に対応すべく考えられる案の一例として下記が考えられる。
1社でなく複数社で、プロジェクトを組んで商品を造りそして供給する。社単位でなく、家造りにおいて理念が合致する企業同士がコラボレーションすることで、大手ハウスメーカーにない、地域ユーザー密着型の住まいの供給を目指す。
コスト面など諸々の詳細が不確定な現状にある物の、次世代の住宅であるスマートハウス市場への参入が、近い将来に、必須となる事が予想される。1社で対応を実施すると、不完全な結果となるか、或いはかなりの高額な住宅となり販売の実現性に欠ける事が予想される。地場企業が共同で商品開発して造り上げることを試みて、一定のスケールを確保すれば、大手電機メーカー等の協力も取り付けられるのではないか。木の温もりや住まい手の想いを丁寧に形にし、そのうえで最先端技術を導入した住まいを提供すれば、優位性を確立できるのではないだろうか。
渡邊豪巳
㈱新建新聞 新建ハウジング調査結果
東日本大震災は人々の家づくりの価値観に大きな変化をもたらしている。なかでも大きな変化が土地選びに関する項目だ。津波被害やいまだ収束のめどが立たない福島の原発問題などにより、土地選びに対する意識がこれまで以上にシビアになっている。
生活の基盤の大本となる土地の選択で、いま、人々は大きな岐路に立たされているようだ。 「(今回の震災で)土地の価値はいつなくなってしまうかわからないことがわかった」( 34 歳男性・茨城県)というように、大きな直接被害をもたらした東日本大震災は、間接的に土地の価値にも大きな影響を与えた。
先日発表された基準地価では、原発問題で不透明な状態が続く福島県をはじめ、津波の被害が想定される沿岸部や液状化被害の危険性がある地域での地価の下落が目立っていた。 長く地価の低迷が続くなか、震災で明ら東日本大震災から半年かになった危険に対する防衛意識が、人々を選別的な土地選びに向かわせるようになっている。
【グラフ1】は2013年3月までに注文住宅を建設する予定がある人に対し、今年6月、土地選びで重視する項目に関して新建ハウジングが独自アンケート調査を行った結果。
影響が比較的限定される津波や原発を押さえ、液状化の起こりやすさや地盤の危険性を重視する意向を持つ人が多くいた。
震災の余波がまだ残っているタイミングだということを勘案しても、家づくり、土地選びに対して、被害の直接的な原因となった地震の発生の有無よりも高い関心を示していた。
「日本中どこにいても地震をさけて暮らす事は難しい」( 50 歳女性・京都府)というように、日本において地震の危険性はどこでもほぼ等しくある。自然現象であるため心配しても予測ができないという意識もある。
これに対し、津波や原発、液状化の問題は事前の調査である程度危険度が推定でき、場所選びである程度対策を立てることが可能。
とくに液状化の問題は、これまではこうした調査で言及されることが少なかったが、被害の大きさなどから人々の注目度が一気に高まったかたちだ。
【グラフ2】は、液状化の発生危険度の判定に関して、今年9月、一般的な地盤調査に追加して液状化に関する調査の実施意向を聞いた結果。
調査の実施時期が震災発生後半年後で、心理状態としては震災発生後3 カ月より落ち着いていると思われるが、新築ではおおむね4人に3人が有料での実施に前向きという結果になった。
リフォームでも、半数以上が有料でも調査を行いたいとする意向を持っていた。
金額の許容額には幅があるものの、新たなサービスとしての可能性を示唆する結果。地盤が弱いとされる地域では、適切に地盤調査の提案をする津波の危険度ことで、顧客満足度の向上にも結びつけていくことも可能と考えられる。
オール電化住宅などで普及が進み、累計出荷台数が2007年9月に100万台、09年10月に200万台を突破した『エコキュート』(自然冷媒ヒートポンプ給湯機)。この『エコキュート』から出る低周波音で不眠や吐き気などの健康被害を受けたとして、高崎市内の男性が11年7月15日に、メーカーのサンデン(株)(本社:群馬県伊勢崎市寿町、木内和宣社長)と、大和ハウス工業(株)(本社:大阪市北区梅田、大野直竹社長)を相手に267万円の損害賠償を求める訴訟を前橋地裁高崎支部に起こしている。以前より、深夜に運転開始することから、近隣から機械の騒音トラブルになることが指摘されていた『エコキュート』だが、それが現実のものとなったかたちだ。
『エコキュート』の運転音が騒音となる可能性があることは生産団体も認めている。今回訴えられたサンデンも加盟している日本冷凍空調工業会(日冷工)は4月、「騒音等防止を考えた家庭用ヒートポンプ給湯機の据付けガイドブック」をまとめて、ウェブサイトで公開している。『エコキュート』の販売や設置の実務者向けのもので、騒音問題への対策として、隣家などに影響をおよぼすような場所は避けるよう設置上の工夫などを解説している。
2011年10月7日付け 住宅情報ナビ掲載記事から引用 転記
訴訟内容の概要は、原告の居住地(群馬県高崎市)の隣地で、大和ハウス工業(以下D社)が注文建築を新築した際に、原告宅との敷地境界線付近に設置したエコキュート(主にヒートポンプユニット)を原因とした騒音により、原告及びその家族が不眠に陥り、健康を害したとされる物である。
この件が裁判にまで至ってしまった経緯として、調停案が示した「エコキュートの移設と費用の業者側負担」に対して、原告隣地の施主は、設計デザイン変更による景観上の損失を理由に不同意。施行者のD社は、法的責任の不在を理由に費用負担を拒否した上で、「あくまでも隣人同士の問題」であると主張。一方メーカーのS社は、「費用負担を施行業者と分担する」という前向きな回答。この件に対して、D社の対応を不服として、調停を取り下げ、裁判に至る事となった。
エコキュートが騒音問題となりえる事を、メーカー及び生産団体は認知している。S社が加盟する日本冷凍空調工業会(日冷工)は、エコキュートを一般的には静かな機器としながらも、深夜に使用する事や都市の過密化等により、騒音への苦情が発生する可能性があるとして、設置方法等の細かな対策をガイドブックにまとめて公表している。今回の件は、景観優先で、このガイドブックが活かされていないようである。隣人等に対する配慮が欠けていた可能性がある。
エコキュートに関する根本的問題点として、低周波被害が存在する事を指摘する。この低周波とは騒音とは全く異なる物で、「うるさい」事は無くとも、振動や長時間の持続により、精神的ダメージを与え、「体調不良」や「鬱」の原因となるものである。当方が、エコキュート問題に関して、S社以外のメーカー数社に見解を求めたところ、一様に「エコキュートの運転音(40㏈程度)は国の規制値内であり、一般的認識としての騒音問題は存在しない」との回答であった。エコキュート問題を騒音問題としてだけの位置付けで、低周波問題には触れないメーカーの姿勢が垣間見える。この低周波に関する認知不足は、被害自体を「被害者の過剰反応」と結論付けてしまう可能性がある。
そして、最も大きな問題であると危惧することは、エコキュートの騒音問題や低周波問題の存在が認知されていない事である。今回の訴訟に関しても、業界内では重要な問題でありながら、報道等が一切と言っていいほどされていない現実がある。消費者団体には苦情相談が多数寄せられている事や、この件が原因の「鬱」による自殺者の存在(未確認情報)等の情報があるにも関わらず、情報の公開がされていない。電力会社が「オール電化」と共にエコキュートの普及に関わってきた事や、所轄官庁が経済産業省であることから、3.11以降の原発問題と同様の構造があるのかと勘繰ってしまう。
エコキュートの設置を検討する際には、これらの問題が存在する事を認知した上で、日冷工がまとめたガイドブックを活用する事や、免振ゴムパットを用いる等の対策と近隣配慮を行う事が肝心となる。これらの措置で、問題の大部分は解消される物と考える。決して、エコキュートが欠陥商品であり使用困難であると訴える物ではない。
(社)日本冷凍空調工業会 家庭用ヒートポンプ給湯器の据え付けガイドブック
SSDP事務局 渡邊豪巳
国土交通大臣から指定を受けた住宅専門の相談窓口である(財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター(通称:住まいるダイヤル)は、2010年度の住宅相談状況を発表した。
同センターによると、10年度の新規相談件数は2万75件で、09年度の2万3,232件より減少。相談者の区分として70.8%が所有者。次いで施工者の11.7%となっている。相談の対象となる相手方は、施工業者が46.9%。リフォーム業者の比率も増加傾向で18.6%。09年度より約3%上昇した。住宅に不具合がある、または瑕疵のあることが疑われる相談および契約上のトラブルがある相談の件数は、7,266件で09年度と比較して153%となっている。相談の多い不具合は、戸建は屋根からの雨漏りが1位(5.1%)。共同住宅では、外壁の剥がれが1位(3.7%)となっている。
また10年度の傾向で特筆すべきポイントして同センターは、以下の2点をあげている。
1.リフォーム見積チェックサービスではリフォーム工事の仕様などが不明確な相談が多い。相談者がリフォーム見積チェックサービスで一番知りたい内容は、「リフォーム工事全体の工事費が適正か」ということであるが、見積りをチェックして見ると「工事範囲や内容」、「性能や仕様」など価格の妥当性を判断するために不可欠な情報が不明確な場合が多い。業者に確認することを助言し、単価などの金額については、参考として、公表されている市場調査データを伝えている。
2.専門家相談では発生事案について、「どうしたらよいのか知りたい」という相談が多い。住宅のトラブルには法律的な問題と技術的な問題が輻輳しており、専門家相談を受けた相談者は、自ら解決方法を見出すことができず、どうしたらよいのかわからずに困っている人が多い。法的助言と技術的助言が同時に受けられる専門家相談は、「どうしたらいいかわからない」という相談者のニーズに合致している。との見解を述べている。
ここまで 2011年10月22日 住宅情報ナビ掲載記事から引用転記
2010年度の相談件数が前年度よりも減少している結果となっているが、これは、前年度に住宅エコポイントの問い合わせが多かったための現象である。エコポイントに関する問い合わせ件数を除くと、相談件数は増加しており、過去最高となっている。
新築件数が減少し、リフォームの需要が拡大している状況の中、事前の相談は、業者間の提示価格の差や性急な契約等を始め、工事内容や価格の妥当性に不安を抱える相談内容が主である。
トラブル発生後の相談に見られるように、ユーザーは技術的にも法的にも自ら判断する能力を持ち合わせていない場合が多い。この事から、ユーザー(施主)は常に一抹の不安を抱えながら工事を依頼している構図が想像できる。契約を結ぶ際には、最終的な理解は難しくとも、納得できるまでの確認を行う事が必要である。場合によっては、「住まいるダイヤル」等の機関を活用する事も望ましい。また、このような専門的第三者機関が、もっと身近に存在する必要性がある。加えて、行政サイドでは、リフォーム案件においても、重要事項説明の義務化等、消費者保護と良質ストックの創出の観点等からの制度設計も必要と思われる。
受注者側は、契約等の成果の獲得を急ぐ前に、信頼を獲得する事が先決である。その為には、工事内容、価格、品質性能を明確な根拠と共に提示する事と、それに対して理解を得るための説明能力を持つ必要がある。加えて、真摯な事業取り組みの姿勢で実績を重ねる必要もある。
SSDP事務局 渡邊豪巳