原子力発電の再稼動が不透明ななか、この夏の電力不足は昨年より深刻なものになることが予想されている。住宅分野でも節電に効果のある補助政策が動き出している。突発的な市場ではあるが、ブーム的な盛り上がりを見せる可能性もある。
この夏の電力不足は昨年よりも深刻になりそうな気配だ。昨夏は福島第一原発の事故で、関東地方を中心に日本が電力不足に陥った。企業や家庭、店舗や工場でも、電力抑制が強いられた。今年は全国各地の原子力発電がストップし、再稼動に向けた動きはあるものの、確かなめどはいまのところ立っていない。
電力需給はさまざまな予測があるが、政府の説明を借りれば、1割程度不足することが予想されている。とくに関西地域(関西電力所管)は大幅な不足になると公表。国は企業などの大口需要家にピークカットへの協力を呼びかけているが、昨年同様の計画停電が行われる可能性も否定できない状況だ。
こうしたなか、国では節電を進める補助制度の開始に向けた準備を急いで進めている。具体的には「蓄電池」「家庭用エネルギー管理システム(HEMS)」「太陽光発電システム」「家庭用燃料電池(エネファーム)」などの設置に対する補助金だ。
蓄電池に1/3補助金
いち早く募集が始まったのは蓄電池に対する 助。定置用のリチウムイオン蓄電池が対象で、設置費用の3分の1までを補助する。個人住宅向けは上限100万円。
対象機器は、補助金の実施団体である環境共創イニシアチブ(SII)の指定を受けたものに限定される。3月30日には対象機器の第1陣が公表され、同時に設置者からの申し込みも始まった。
4月5日現在、3社7製品が認定済み。対象機器の認定は順次行い、追加していく。予算規模は2012年度からの2カ年で総額210億円。かなり大規模な補助事業で、今後、夏場の電力不足に対する不安が強くなれば、富裕層を中心に購買意欲をあと押しする可 能性がある。
HEMSは定額10 万
もうひとつはHEMSに対する補助だ。スマートメーター(ことば参照)と連携し、エアコンや照明器具などの運転を調整する機能を持つ機器が対象で、国が進める「エコーネットライト」という通信規格に対応するなどの条件がある。
蓄電池補助金と同じく、SIIが実施し、補助対象機器もSIIが認定する。対象機器の公表と設置希望者の募集が始まっている。
補助額は定額10万円(10万円未満の場合は実際の額、13年4月に原則引き下げ)。予算規模はビル向けのBEMSとあわせて300億円(11年度3次補正予算)で、蓄電池補助金と同様に2012年度、2013年度で実施する。
蓄電池とHEMSへの補助金は節電対策の目玉といわれてきた。どうしても間に合わせたいという国の意向を反映し、年度末に慌しく条件が決定。
とくにHEMS補助金は、対象製品がなかなか出そろわず、条件となる規格への対応を将来的なバージョンアップでも可としている。
太陽光補助も様変わり
ピーク対応として、昼間の系統電力の消費量を抑制する働きのある太陽光発電システムに対する補助金も大きく変わる。
これまで一律だった補助額が、システム価格によって2段階に。変更のポイントは、システム価格が安いほうが、補助額が高くなる点だ。
1kWあたり55万円以下のシステムへの補助額が1kW3万円なのに対し、同47・5万円以下のシステムに対しては同3・5万円を補助する。 補助金を差し引いた導入費用は単純計算で、前者が52万円、後者が44万円で8万円の差ができる。メーカーに対し価格の低下を進めさせ、普及を加速させるのが狙いだ。
モジュール変換効率の条件も引き上げ、高性能で安価な製品の開発を促す。4月下旬から募集を開始する予定だ。
自治体も節電対策加速
こうした節電対策設備に対する補助制度は国だけでなく、自治体でも新規や拡充の動きが活発になっている。
例えば、神奈川県は市町村が実施する太陽光発電補助に対する上乗せ補助の件数を、昨年度の1万2200件から今年度は2万4000件に倍増する。
東京都荒川区は住宅などに設置した民間の太陽光発電を使い、計画停電を含む災害停電時の非常用電源として近隣住民に電力を提供するしくみを構築する。「街なかメガソーラー」という考え方で、新たに太陽光発電システムを設置する場合に協力者として登録すると、通常の助成額(1kWあたり2万円)を1・5倍に増額するもの。再生可能エネルギーの導入と防災対策を同時に進めていく。
このほかにも、多くの新設、増額の動きがある。再生可能エネルギー買い取り制度とあわせ、節電対策設備への支援が一気に加速していきそうだ。
新建ハウジング2012年4月10日号掲載記事転載